自己肯定感を取り戻したきっかけ

ところが、新たな職場での仕事が波に乗り始めた今は「自分の社会的地位が上がってきたんで、今はその気持ちはないですね」と言い切る。背景にあるのは、自らも仕事で活躍しているという自信だ。著書はベストセラーとなり、新聞記事に取り上げられたり、テレビ番組に出演したりすることも珍しいことではなくなってきた。

今は本当に、私の状況が変わってきているので、応援したい気持ちのほうがどんどん強くなってきていますね。そのバランスですよね、ある種、競争相手でもあるので。

社会人としての実績では、一〇〇%負けてますけど、仕事のジャンルは違いますが、パートナーシップでしょうか。私が想像していた夫婦よりは、はるかにパートナー的な関係です。

小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)

モヤモヤがまったく解消されたわけではないが、五〇対五〇だった、焦りと応援したい気持ちの割合を巡っては、応援が焦りを凌駕りょうがするようになっている。

収入の多寡はさておき、内田さん自身の仕事におけるパフォーマンスの向上が、自己肯定感を取り戻すきっかけとなり、ワークエンゲージメントが高まっているものとみられる。

ワークエンゲージメントとは、労働経済学などで注目を集めている概念で、厚生労働省によれば、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の三つが揃った状態として定義されている。

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多く稼いでいる妻が大黒柱なのか?

妻は、経済的に自分がメインになっている今の状態に対し、若干違和感を抱いているらしく、自分が大黒柱になりたくないと思っているんですよね。経営者ということもあり、継続的に所得が保証されていないということがあるのかもしれませんが、やっぱり経済的な重荷を背負いたくないと思っています。その意味で、妻は精神的には大黒柱ではないんですよ。

双方が話し合った上で決めたという年収に応じた傾斜配分に基づき、内田さんの倍以上を稼いでいる妻が、生活費や教育費に加え、旅行代などの大半を支出しているものの、一家の大黒柱たる存在になるのは望んでいないというのだ。第三者から見れば、多く稼ぎ、多くの家計支出を担う妻のほうが内田さんよりも大黒柱であるように映るのだが、どういうことなのか。