上場が早すぎるとイノベーションが起きにくくなる
【パックン】僕は日本で起業家をしているアメリカ人の友人が多いけど、みんな口をそろえて言うのは、日本の企業は上場が早過ぎるということですね。
【エミン】早いよね。
【パックン】日本の創業者が証券会社に上場をけしかけられているのかもしれませんが、上場すれば数十億円が手に入るわけです。「だったら上場するか」ってなるよね。それが日本でユニコーン企業(企業価値の高い未上場ベンチャー)が育たない理由にもなっている。上場すると、投資家から1年、2年で利益を出すように要求されて、中長期視点での成長戦略にお金が回らなくなる。
だから、最終的にとんでもない利益につながるようなイノベーションが起きにくくなってしまうんじゃないか。日本で起業したアメリカ人に話を聞くと、証券会社から「早く上場しましょう」と勧められるけど、「もっと我慢して!」と彼は言っているらしい。
【エミン】それは税制も関係あるよ。
【パックン】そうなんだ。
【エミン】社長が1億円の給料を受け取れば、半分くらいは税金でもっていかれてしまうでしょ。それが株式の売却であれば1億円の利益があっても、税金は20%しかかからない。日本でお金持ちになる方法は、会社を上場させるしかない。
だから僕の知っているオーナー企業は、どんなに儲かっていても社長の給料は1000万円くらいに抑えているケースが多い。給料を増やしても税金でとられてしまうから。少し規模の大きい企業になっても、5、6000万円くらい。国に半分持っていかれるなら、会社の中に置いておこうと考えるよね。
一方でアメリカの企業は、上場せずに会社の株を担保にクレジット・ライン(与信限度額)を利用してお金を借りている。
アメリカは上場しなくても大金が手に入る
【パックン】アメリカの企業の社長は超お金持ちだよね。
【エミン】そう。WeWorkの創業者もそうだけど、社長がアメリカで豪華な暮らしができるのは、クレジットラインのおかげともいえる。上場する見込みがあれば、会社の株を担保にして金融機関がクレジットラインをものすごく広げて、お金を借りられるようにしてくれる。借りたお金は上場したときに返せばいい。金利が低いからそれで問題ないのです。
実際に上場した時は、得られた利益が借金の返済で消えるから、社長はほとんど税金を支払わない。それがいいとは思わないけど、日本では利用できないから社長が資金を手に入れるには、上場しか方法がないからね。
【パックン】その仕組みは良くないよね。
【エミン】良くないけど、日本の社長だってお金は欲しいでしょ。だから、さっさと上場させてまとまったお金を手に入れて、20%の税金を支払って自分のお金にする。