「お金に困っている患者などいません」看護師長の驚きの言葉

壁の2つ目はFP相談を受け入れる医療機関の少なさ。これはもっと複雑だ。

事前にお断りしておきたいが、筆者は、全国の医療機関のすべての事情に精通しているわけではない。次に述べるのはあくまで、これまで接点を持った病院に対する印象や考えだと捉えていただきたい。

まず、そもそも医療機関は保守的で、外部から専門家が入るのはかなりハードルが高い。そして、決定権がトップにあったとしても、相談現場などの医療者の協力が不可欠で、彼らがFP相談に対して理解していることがとても重要だ。逆に、相談現場などがFP相談に前向きであっても、トップがOKしないかぎり導入できない。

FPへの報酬はどうするのか。どのような契約にするのかなどの事務手続きも煩雑であり、何より医療機関はとにかく業務過多の上、人員不足で、新規事業の受け入れ態勢が整わないなどの理由もある。

筆者は、何度か、医療機関へFP相談窓口設置の提案に行ったが、「無償ボランティアなら、相談にきてもらってもよい」と上から目線で言われたのは、まだマシな方である。

事前に医療機関に対しては、「金融商品の勧誘やFP有料相談の誘導など営業活動はしない」「患者の個人情報を第三者に漏洩しない」などと説明している。しかし、

「FP相談を院内ですること自体、営業活動ではないか。それは好ましくない」
「患者に保険や株など金融商品を勧められては困る」

などと、言われることも一度や二度ではなかった。「この程度の相談なら、すでに院内の相談員で十分対応できている」と言われたケースもあった。

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でも、冒頭で触れた子宮頸がんに罹患した30代女性の場合、退職前にかかりつけ病院の相談窓口である医療ソーシャルワーカーに相談に行っていた。

だが、女性は筆者に「確かに、『安易に仕事を辞めてはいけない』とアドバイスされましたが、何となく、仕事を辞めない方が社会とつながりが持てていいよ、みたいなメンタル的なものかと思っただけでした。傷病手当金のことを説明された覚えはありません」と話す。相談者側の話しか聞いていないので、相談窓口側が、傷病手当金の情報を伝えたのかどうか、事実は分からない。

院内の相談員で対応できていると断言した病院と遥香さんが相談した病院は別組織とはいえ、相談窓口のスキルや経験値、相談する側の理解力などによって、患者さんが必要な正しい情報がちゃんと伝わっていないことはある。

とくに、最近の相談は、複雑かつ個別化しており、医療機関内での専門職だけでなく多職種の関わりが必要だということは、感度の高い医療者ならちゃんと分かっている。

筆者が最も驚いたのは、ある公立病院の看護師長の「ウチの病院には、お金に困っている患者などいません」という一言である。その病院の患者からも相談を受けたことがあり、「いない」のではなく、「言えない」だけでは、と内心思ったが、あまりの権幕に言い出せなかった。