「ひろゆきは、データがないと守ってくれない」

「全部が口約束でしょ? 証拠がなにも残っていないから君を守れない」

いまなら、ひろゆき君の言うことは正論だと思えるのだけれど、そのときは、こんなに傷ついている私に、よくもまあそんなことが言えると思ってブチ切れたのを覚えている。

「この件で僕が口を出すと、役員の彼女が報酬のことで不満を言っている。役員が会社の経営に私情を挟んだと思われる」と、彼は冷静に私を諭してきた。

それで結局、私はなんの反撃もできず、契約を解除された。

守ってくれなかったひろゆき君にすごくがっかりしたし、裏切られたという思いが消えなくて、しばらく彼とは口も利かなかった。

でも、この一件から私は、ひろゆき君と生きていくためにすごく大事なことを学んだのだ。

「ひろゆきは、データがないと私を守らない」

そして、こうも考えた。今回みたいなことって、ほかの仕事でも起こり得るんじゃないかと。

口頭でそんな約束をしてしまった時点で私の負けだったのだ。

これは、フリーランスとして生きていくために大事な教訓だった。

そして、二度と同じミスは繰り返さないと心に誓った。

大事な人を守らないひろゆきから妻が学んだこと

ちなみに、この話を誰かにすると「ひろゆきさんは大事なことをゆかさんに教えようとしたのですね。そんなひろゆきさんに、ゆかさんは感謝しているのですね」とか言ってくる人がいるけれど、それは絶対に違う。

いまでもこの一件を思い出すと、腹が立って「あのときなぜ助けなかったああああ」とひろゆき君につかみかかりそうな勢いである。でも、何事もすぐに忘れるのが特技の彼は、たぶんとっくに忘れているのでそんな無駄なことはしない。

でも、読者のみなさんがわかってくれたらうれしい。

ひろゆき君が教えてくれたんじゃないの。

私が自力で自衛を学んだだけなの。

西村ゆか『転んで起きて 毒親 夫婦 お金 仕事 夢 の答え』(徳間書店)

数年後、私は、別の仕事で、別の人から同じ目に遭いそうになったが「口頭ではなくメールでお願いします」と速攻で返した。そして、契約満了まで無事に働いた。

さらに良かったのは、同じ目に遭いそうになっていた、若手のデザイナーを守ることもできたということだ。彼女もちゃんと次の仕事を見つけるまで、その会社で働くことができた。

なにが言いたかったかというと、ひろゆきはヒドイ……じゃなくて、人の善意につけ込むやばい奴はどこにでもいるということ。そのための自衛は怠ってはならないということです。

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