人が変われるということを伝えたい
もし和田がスコア至上主義のスパルタコーチであったら、笹原はゴルフを続けてこれなかったかもしれない。「スコアは人間性」という言葉から、自分を変えていきたいという気持ちが、笹原の心に芽生えた。ゴルフが人として成長するためのツールになった。
「自分を変えるということに高校生の時から、ずっと取り組んできて。この状況で結果を出すためには、自分がどう変わっていけばいいのかということを軸に、ゴルフをやり続けている感じかなと」
眼前に、ゴルフの競技というものがあったから頑張れた。試合がなかったら、そこまで頑張ろうとは思えなかったというのは、笹原の偽らざる本心だろう。
しかし、QTを突破してツアーに参戦するようになり、また別の感情が表れるようになった。それは、応援している人の存在だ。ギャラリーはもちろん、リアルで会うことはなくてもSNSを通じて応援してくれる人もいる。その存在の多さを感じているという。
「私も以前は、絶対に自分は変われないと思っていたけど、めちゃくちゃにもがき苦しみながら、少しずつ変わっていけたという経験をしているので。
ゴルフは向いてないし、下手だということもわかってるけど、でも人は変われるということも知っているから。
自分と同じように、辛い想いをしていたり、夢も希望もないみたいな人生を送っている人にも、絶対に人は変われるんだよって伝えたい。だからゴルフを続けています」
「ゴルフのプロ」として生きる
現在の笹原は、コーチとしての和田の元を離れて活動している。イベント、メディア出演、レッスンなどの仕事もこなしながら、選手としての実力を高めるために出来るだけ多くの時間を練習とトレーニングに充てているという。
ミニツアーなどの賞金収入だけで生計を立てるのは難しいが、活動を支援するスポンサーが数社集まり、イベント出演などのギャランティも収入になる。
YouTubeなどで紹介するレッスンコンテンツは人気で、レッスンに集中すればそれが安定した収入源になるだろうが、それに積極的でないのは自分がレッスンプロではなく、プロアスリートだという自負があるからだろう。
プロテストに受からないとプロではない、という考え方がある一方で、ゴルフの活動を通して収入を得ている笹原はアマチュア資格を喪失している。自身ではなんと名乗っているのだろうか。
「ゴルフのプロです。選手として試合に出て、ゴルフのプロアスリートとしての活動で生活しています。だから、ゴルフのプロ」
けれん味も逡巡もなく、笹原はそう答える。プロでもアマでもないという微妙なモラトリアムの立場であっても、胸を張ってそう答えられるのは、自分の活動に揺るぎない想いがあるからだろう。