恋多き女だった淡谷は、恋人を亡くした笠置をたき付けた

生涯でただ一人の男性を愛した笠置に対し、恋多き女として知られた淡谷。だが、この会話のみを令和に生きるわれわれが見ると、笠置に対する淡谷の恋愛無理強いぶりは、モラハラにも受け取られかねない。

ちなみに、ドラマにあった、りつ子に対するスズ子の「歌しかない」発言、スズ子に対するりつ子の「ブギも終わりよ」発言は、対談の後の雑談で交わされたものだったようだ。

淡谷のり子(写真=『アサヒグラフ』1953年4月8日号/PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons

ドラマでは、りつ子は最初、スズ子のパフォーマンスを見て「下品」と評したものの、スズ子が自分の楽団を作ったのも、りつ子の影響だったし、自由に歌えなくなったスズ子を奮い立たせたのも、りつ子のブレないスタンスだった。スズ子が妊娠すると、りつ子は「大変なのはこれからよ」「本当の本番は産んでから」と言い、サラリと「私、子ども産んでるのよ」と告白。しかし、自分の場合は10年間田舎の母に預けっぱなしだと言い、歌手を続けながら子育てするスズ子に敬意を表し、一時は楽屋にいる赤ん坊の愛子をあやしてくれてもいた。

では、笠置シヅ子との淡谷の実際の関係はどうだったのか。

「出産して丈夫になった」という笠置に淡谷も同意

笠置と淡谷の共演機会は多く、交流もそれなりにあったが、ドラマのような「親友」「名パートナー」という対等な関係にあったかどうかは資料からはわからない。

ただ、『婦人公論』の対談では、もともと体がきゃしゃで弱かった笠置が、出産以来、すっかり健康になったと語り、そのことを淡谷も把握していた様子だ。「ブギウギ」のように淡谷が笠置に家政婦を手配するほど私生活にまで介入する仲だったかは不明だが、ふだんから健康状態について話すぐらいの付き合いではあったようだ。

淡谷「昔はあなた、よくノド悪くしたでしょ、あれから訓練したわね」
笠置「お産で血が変わったこと。これは女には大きな影響ですね。(中略)こんなにノドも体も丈夫になるということは夢にも思っていなかった。」
淡谷「ほんとに丈夫になったわねェ。前はチョコチョコ――。」
笠置「昔は二日目に電話が来ると、また笠置の病気じゃないかってみんなをヒヤヒヤさせたものです。」
(『婦人公論』1949年11月号)