公衆衛生長官が警告した「SNSのリスク」
このような状況に議員たちは苛立ちを隠せない様子だったが、共和党のジョシュ・ホーリー議員はフェイスブック創始者のザッカーバーグ氏を厳しく追及した。
「親御さんたちもこの場にいますし、テレビで全国中継もされています。あなたの製品の被害者に謝罪しますか? 被害を受けた善良な人々に謝罪しますか?」と。
すると、ザッカーバーグ氏は立ち上がり、親たちの方を向いてこう述べた。
「あなた方が経験したことすべてに対して申し訳なく思います。このようなご家族の苦しみを誰も味わうべきではありませんでした。こうした事態が二度と起こらぬよう、われわれは多額の投資をし、業界主導で取り組みを続けてまいります」
ザッカーバーグ氏は一応謝罪したが、自社の製品を擁護し、十分な対策を講じていると主張した。その後、他の議員の質問に答える形で、未成年者のSNS利用とメンタルヘルスへの悪影響について「直接的な関連性はない」と否定した。
「とても深刻に受け止めていますが、メンタルヘルスは複雑な問題です。SNSの利用と若者におけるメンタルヘルスの悪化との関連性は科学的には示されていません」
しかし、ザッカーバーグ氏の主張とは異なり、最近両者の関連性を示す研究調査が続々と発表されている。このような状況を受けて、米国の公衆衛生を統括するヴィヴェク・マーシー公衆衛生長官は2023年5月、SNSが子どもや十代の若者のメンタルヘルスにもたらすリスクについて警告を発した。
SNSの利用によって学業成績が低下するおそれも
米国ではSNSやスマートフォンが普及した頃から、青少年のうつ病、不安、孤独、自傷行為、自殺などが急増していることを多くの研究調査が示しているというのだ。たとえば、マサチューセッツ工科大学の経済学者、アレクセイ・マカリン氏らが2022年に発表した調査では、フェイスブックの登場後、学生たちのうつ病や不安症の割合が急増し、学業成績も低下したことが判明したという。
ザッカーバーグ氏の主張は公聴会を傍聴していた親たちからも反発を招いた。SNS上の性的搾取が原因で17歳の息子を亡くしたブランドン・ガフィーさんは公聴会の後、ABCニュースの記者にこう話した。
「息子が自殺した原因はインスタグラムにあります。SNSは子どもにとって危険であり、企業側の対策は不十分です。ザッカーバーグ氏の謝罪は受け入れられません。彼はとんでもない嘘つきです。“口ではなく、行動で示せ”ということわざがありますが、大切なのは行動です。改革を始めるまで、何かを言う資格はありません」