「金を送らなければ裸の写真をばらまく」と脅迫され…

前出のブランドン・ガフィーさんは2022年7月27日の早朝、サウスカロライナ州ロックビルの自宅で携帯電話を操作していたところ、廊下の向こうのバスルームから大きな音が聞こえた。すぐにドアがロックされたバスルームにいた高校生の息子の名前(ギャビン)を呼んだが、返答がなかったのでドアを蹴って中へ入り、息子が血を流して倒れているのを発見した。

最初は転んで頭を打ったのかと思った。でも、妻のメリッサさんに緊急通報をするように頼んだ後、そばに拳銃が置いてあるのに気づき、火薬のにおいもしたという。息子は自ら命を絶ったのだ。

ガフィーさんは息絶えた息子の体を両腕に抱えてバスルームの床にしばらく座っていたというが、後日メディアに「あれほどの痛みは経験したことはありませんでした。今もとても苦しいです」と語った(『ピープル』誌、2023年3月29日)。

息子が亡くなった夜、ガフィーさんは、彼がノースカロライナ州の大学生と思われる女性に送った恥ずかしい写真をネタに恐喝されていたことを知った。若い女性を装ったオンライン詐欺師は最初、自身のヌード写真を送り、その見返りとして彼に写真を何枚か送るように求めたようだ。

そして息子が送信ボタンを押すと、その詐欺師は「オンライン決済アプリで送金しなければ、写真を公開する」と脅迫したのだ。

「性的脅迫」の被害は年間で7000件以上

これはセックス(sex)と脅迫(extortion)を組み合わせた造語「セクストーション」と呼ばれる性的脅迫の手口だが、加害者は時間をかけて標的とする未成年者が信頼するように誘導し、標的が性的な画像を送った瞬間に豹変ひょうへんする。「それを公開してほしくなかったら、金を払え」と。

フードを被った人がスマートフォンを使用している
写真=iStock.com/Weedezign
※写真はイメージです

連邦捜査局(FBI)によると、2022年5月からの約1年間でオンライン上での未成年者のセクストーションに関する報告は7000件を超え、そのうち少なくとも約3000人が被害を受け、十数人は自殺したという。

セクストーションの加害者は米国内に限らず、海外にいる場合もある。

ミシガン州マーケットに在住していたジョーダン・デメイさん(17歳)はネット上で女性のふりをしたナイジェリア人男性3人にヌード写真を送った後、1000ドル払うように脅され、自ら命を絶った。

2023年3月25日のことだが、その直前にジョーダンさんは「この脅迫のせいで、自分は死ぬつもりだ」と告げると、男たちは「それはよい」「惨めな人生を楽しんでくれ」などと返したという。

母親のジェニファーさんは法執行当局との記者会見で、「息子の笑顔は周囲の雰囲気を明るくしてくれました。彼はどこに行っても人を引き寄せ、出会った人に忘れられない印象を残しました」と語った(ABCニュース、2023年5月4日)。