女性に男性同様の権限を与えてこなかった新聞の現場

前回は、この「岩盤のような男性主観」が女性記者のキャリアをどのように狭めてきたか考えたが、今回は新聞のニュース判断や記事掲載にどう影響してきたかを見ていきたい。

『群像』2024年2月号の「男性管理職の『納得感』?」という記事に、その一例が載っている。2023年3月の国際女性デー連載企画で女性の就労差別を取り上げたときに経験したことを、元朝日新聞記者の阿久沢悦子氏が書いたものだ。

記事の初稿を男性編集幹部たちがチェックした後、リクエストが回って来た。「男性読者に読ませるような書き方をしてほしい」「女性を取り立てる側が、その方が得で幸せなのだ、と思えるような記事にするのが重要だ」といった内容だった。さらに、「自分のキャリアを優先するため、妻の方を退職させた男の話も入れて」というものまで。阿久沢氏は「女性の側が男性に『得だ』『幸せだ』と思わせるように努力するべきだというロジックが、差別の再生産だということになぜ気づかないのか」「『差別』の話に両論併記、いらないよね?」と率直に感想をつづっている。

「岩盤のような男性主観」に疲れ新聞社を辞める女性も多い

こうした要望の取り扱いはデスクの裁量に任せられるため、実際の記事にさほど反映されたわけではないという。だが事実であるなら、男性編集幹部たちは、職場で差別を受けている女性の側ではなく、組織の中枢を占める既得権益層の男性側の立場から問題を見ているということになる。女性が経験してきた賃金や雇用形態、昇進面などでの差別的な扱いを伝えるのがポイントのはず。でもそれをテーマに書くなら、同時に、女性を公平に扱うことのメリットも挙げろ、と言わんばかりの反応だ。

YouTubeで見る場合: 柴田優呼/Yuko Shibata @アカデミック・ジャーナリズム「岩盤のような新聞の男性優位主義」(2024年1月22日公開)

新聞記事が紙面に載るまでには、企画・編集段階でいろいろな攻防が起きる。特にジェンダーなどマイノリティーの問題が絡む記事ではこのように、「岩盤のような男性主観」を具現化したような反応が管理職側から起こることがある。「頑張って押し返すのだけど、それをしょっちゅう繰り返すうちに疲弊して、辞めていく記者たちが少なくない」と吉永氏は指摘している。

「新聞の中には意識の壁がある」。1990年代から性暴力被害の取材をしてきた元朝日新聞記者の河原理子氏は2023年6月、日本記者クラブでの会見でそう指摘している。2017年以後、性暴力に関する記事は目に見えて増えてきた。ジャーナリストの伊藤詩織氏が当時TBS記者だった山口敬之氏を提訴し、アメリカでMeToo運動が盛り上がった年だ。