さらに米銀大手は基本的にリスクの高い商業不動産には貸さない。貸すのは中小の地方銀行である。

その中小銀行は金利上昇の影響などで破綻が相次いだ。2023年3月10日にシリコンバレー銀行、3月12日にシグネチャー銀行、5月1日にファースト・リパブリック銀行が破綻している。

銀行の破綻に備えて米国には米連邦預金保険公社(FDIC)が破綻した銀行の預金に関して1口座あたり25万ドル(3600万円程度)を上限に保証している。日本の預金保険機構と同じで、日本では上限が1000万円である。現行制度からすれば当然のこととして破綻した銀行の預金の保護は25万ドルを上限とするべきであった。

米金利のひずみが生んだ商業不動産の三重苦

この制度のことは以前から公開情報であるため、25万ドルを超えた部分については保証しなくても誰も文句はいえないはずであるが、今回の破綻に関しては、米国政府は上限なしの無制限で保証すると発表した。

そうでもしないとスマホであっという間に預金が解約・送金されてしまう現代においては、すぐに次の標的に解約が殺到し、アメリカ中の地方銀行がすぐに倒産するような事態になりかねなかったのである。

取り付け騒ぎの連鎖的発生は回避できたが、政策金利が高騰したために、銀行にお金を置いておくよりもMMF(マネー・マーケット・ファンド)に預けた方が良いということになり、信用リスクと金利水準の両方の理由で地方銀行から資金が流出した。また信用リスクが高くなれば自行の調達コストに当然跳ね返る。つまり調達コストが高くなる。

こういう状況はアメリカ商業不動産のデバロッパーにとっては三重苦(空室率は上がる、金利も上がる、銀行が貸さなくなっている)といえるだろう。

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投資マネーが逆流するトリガーになり得る

リスクのサインとしては、デバロッパーの破綻、空室率20%超、調達コストの上昇、銀行の貸し出し態度の硬化、というのが一般的であるが、すでに全て発生している。

これらの状況を勘案すると、すでに商業不動産が株の下落を引き起こしてもおかしくない状況であるが、都合の悪いことは見ないことにしているかのようである。強いて言えば調達コストが本格的に上がるのはもう少し先かもしれないが。

商業不動産ローンは住宅ローンに比べて規模が小さいこともあり、サブプライムのような破壊的インパクトはないとしても、不動産市況の悪化は、金融システムの疲弊につながり、株価にとっても明らかにマイナスとなるだろう。日本に流入するマネーが減少する、あるいは逆流を始めるトリガーに十分なり得るというわけだ。

他にも要素はいろいろあるが、アメリカ経済はソフトランディングで済むかハードランディングにならざるを得ないのかという議論はあるものの、悪化するであろうことは明らかなコンセンサスとなっている。日本の株価も米国株式市場悪化の影響は受けざるを得ないため、米国経済の不調・株価低迷は日本株の下押し要因となる。