なぜ打ち合わせの「無間地獄」に陥るのか
逆説的だがこれらが例の「仕事ではない何か」のために作られたものなら被害はまだ少ないかもしれない。顧客がおらず欠陥に誰も気づきようがないためだ(不幸なことに造形物にもこうしたものが存在する。特に税金を投入された大規模な建物の約半分はこの類である)。しかし顧客が存在する製品・サービスでこれをやると大変なリスクとなる。
また、我々は仕事が納期に間に合わなそうになると応援人員を呼ぶ。もちろんそれ自体は必要だ。だが、えてして我々はこうした状況において「人は多ければ多いほどいい」と錯覚する。そして増えすぎた応援人員に仕事の進め方を説明するうちに日が暮れていく。
さらには、こうした応援人員はまだ仕事に慣れていないため少なくとも当初は十分な量と質の成果物を出せないことが多い。
そのため我々は不安に陥り、成果物の定義を確認するための打ち合わせを乱発するようになる。しかし打ち合わせによって本来の仕事に必要な時間は失われている。そのため成果物は我々にとって満足いくものにならない。仕方なく打ち合わせの数をさらに増やす……という無間地獄に陥る。
仕事に携わるすべての人が「経営の当事者」
すぐにマニュアルを作ってしまうというのも考えものだ。我々はマニュアルを作ったり、フローチャートを描いてみたり、ワークフローを確認してみたりすることで、仕事が終わったと早合点しがちである。だが冷静に現場を見回してみると、それらを作成したことで変わったのはせいぜい自分の机の汚さくらいである。
それどころか、マニュアルを関係部署に配って回ったところで人はマニュアルになかなか従わない。マニュアルがどれだけ改訂されても実際の仕事の方は創業当初から変わっていないという職場はごまんとある。
そのほかにも投資を集めるために理想的な語りとメディア露出ばかりに注力して成長が鈍ってしまい結局は投資家も逃げていく財務担当取締役から、会社に遅刻しないように全速力で赤信号を無視して事故に遭って遅刻どころの騒ぎではなくなる新入社員まで、こうした悲喜劇は数多くみられる。
仕事に携わるすべての人が経営の巧拙の当事者なのである。
このことに気づくだけでも、ここで挙げた不条理・不合理の多くは回避できる。
参考文献
Deming, W. E.(1986). Out of the crisis. Cambridge, MA: Massachusetts Institute of Technology, Center for Advanced Engineering Study.
エリヤフ・ゴールドラット(著)・ラミ・ゴールドラット(監)・岸良裕司(監)・ダイヤモンド社(編)『何が、会社の目的を妨げるのか:日本企業が捨ててしまった大事なもの』、ダイヤモンド社、2013年。
岩尾俊兵『13歳からの経営の教科書:「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』、KADOKAWA、2022年。
岩尾俊兵・秋池篤・加藤木綿美『はじめてのオペレーション経営』、有斐閣、近刊。
大野耐一『トヨタ生産方式:脱規模の経営をめざして』、ダイヤモンド社、1978年。