次期総統は国際協調路線の継続を明言

台湾が国交を結んでいる友好国は、中国共産党の締め付けもあり、現在13カ国と減少傾向にある。しかし、総統選挙で民進党 賴清德副総統の当選が決まると、当日の早い段階で「友好国12カ国、米国、日本、フランス、英国、ドイツ、オーストラリアなど50カ国以上の行政部門や議会が、台湾に祝意を表明し、台湾の民主主義の成果を高く評価した」と台湾外務省が発表した。「世界で孤立している」といった状態とはかけ離れている。これこそが、蔡英文政権が8年で創り上げた成果なのだ。

賴清德・総統当選人(5月20日の正式就任までの呼称)は、「私たちは蔡英文総統が作った国際協調路線を引き継ぎ、さらに拡大していく。例えば半導体の安定供給は私たちの世界に対する使命であり、そのためにはさらに世界とも協調していく」とも発言している。これこそ、台湾外交の成功ではないだろうか。

撮影=藤重太
欧米メディアの取材チームの姿も目立った(1月11日、国際記者会見場にて)

世界が台湾に注目することは、中国の暴発を防ぐのに役に立っている。また、台湾が世界経済のサプライチェーンの重要なプレーヤーとして組み込まれることで、台湾の危機は世界の危機であるという危惧を、世界中が共有する。今回の総統選挙は、こうした現状の国際外交政策を続けるか続けないかを、国民投票で決める選挙でもあったのだ。台湾は民主主義の模範となることで、最大の防衛力を有しているのである。

日本の報道では、「台湾は平和のために中国と対話すべき」という論調が大勢のようだ。しかし「距離を置く外交」「無視する外交」「他国との連携で会話をしていく外交」もあるのではないだろうか。今回、台湾国民は「現状を変えて中国との対話を進めるリスクにNOを突きつけた」と、筆者は考える。このような外交を実践している台湾の戦略は、日本にとっても大いに学ぶところがあるかもしれない。

自由な民主政治への誇りと政治参加

今回の取材では、テレビ番組や出口調査でのインタビューで、多くの台湾人の政治に対する思いを聞くことができた。彼らの言葉の中には、特定の政党を勝たせる思いよりも、台湾の民主主義を守り、もっとよい民主主義国家を創り上げていくことへの想いと誇りが感じられた。

12日の投票日前日の民進党最終応援集会で出会った30代の男性は、「民主主義の種は日本が残してくれたものです。一党独裁時代を経て遠回りはしたけど、1996年の総統公選から少しずつ私たちは民主主義を育ててきました。今日この応援集会に来たのは応援と同時に民進党を監視に来たのと同じことです」と語った。