日本一の寺院過密率の“滋賀モデル”が注目されるワケ

現状はどうか。浄土宗(2017年調査)では全体の57%が「専業住職」だ。「以前に兼業していた」は22%、「現在も兼業している」は20%となっている。専業率が低い(兼業率が高い)教区では、出雲が33%、滋賀が35%、伊賀が35%、尾張が40%などとなっている。

この中で滋賀県は人口10万人あたりの寺院密度が、日本一の寺院過密地域として知られる。滋賀県内の寺では檀家数が20軒や30軒といった零細寺院が少なくない。それだけを見れば「食べていけない」寺院が多いように思える。だが、必ずしもそうではない。データが示すように多くの住職が「兼業」しているため、主たる収入がサラリーマン給与だからだ。

滋賀県は、京都や大阪といった大都市が通勤圏内である。寺に住みながら、正社員として働きに出ることが可能である。滋賀県の寺院立地は、むしろ恵まれているといえる。

鵜飼秀徳『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)

人手不足の時代にあって、地方都市でも住職をしながら、リモートなどを活用した仕事に就くことで、寺院を維持していくことが可能になる。兼業で寺院を護持していける「滋賀モデル」のような寺が、今後はますます増えていくことだろう。

なかには「僧侶の兼業など、とんでもない」と、僧侶の世俗化を批判する人もいるかもしれない。だが、私はむしろ、現代僧侶は就職すべきだと考えている。僧侶のなかには、庶民感覚に乏しい者も多い。特に若い僧侶にはどんどん社会に出て、最低限のマナーやスキルを身に付けてほしい。それが結果的には、寺を活性化するアイデアを生むことにつながるのだから。

後編は檀家制度や戒名などの、仏教的な慣習の崩壊について論じていく。(以下、後編へ続く)

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