自家用車ブームはもう起きないかもしれない

モータリゼーションが訪れる前にスマホが普及したベトナムでは、人々の自動車に対する感覚が日本や中国とは異なってしまったようだ。多くの人が、自動車は所有するものではなく使用するものと考えるようになった。

一般の人にとって自動車はいまだに高価である。そんな自動車に対してローンを組んでまで手に入れようと思う人は少なくなった。

スマホが普及すると、日本でもメルカリに代表される中古市場が活性化するなど、人々の行動パターンが変わったが、ベトナムでは自動車に対する感覚が真っ先に変わってしまったようだ。

ベトナムの一人当たりGDPは、2022年には4087ドルになった。一人当たりGDPが3000ドルを超えたのに、ベトナムではいまだ自家用車ブームは起きていない。たしかに街を行き交う自動車は増えて渋滞が発生するようになったが、20年前にタイで経験したどうしようもない交通渋滞は今のところ発生していない。タイや中国での経験とベトナムはどこか異なる。

「自動車産業なき経済発展」が主流に

10年ほど前にインドのタタ自動車が日本の軽自動車などよりも小さな車を発売したことがあった。しかし、庶民がそれほど自家用車を欲しがらないのであれば、小型車が人気を博することはない。

川島博之『歴史と人口から読み解く東南アジア』(扶桑社新書)

ある程度の収入がある人は、中型車を購入して、休日や空いた時間に白タクを走らせて収入を得たいと思うはずだ。東南アジアで日本の軽自動車は売れないだろう。

ここに書いたことは、今後の東南アジア経済を考える上で、とても重要だと思っている。我々日本人の頭の中には、経済発展とは工業化、その中でも自動車産業が花形という思いが強く刻まれている。

しかし、スマホが普及した現在、全てのものに対して、所有よりも使用が重視されるようになった。ヤフーオークションやメルカリがブームを起こしたように中古品も抵抗感なく流通する。それは工業部門が経済発展をリードする時代ではなくなったことを意味している。

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