必要なのは、きっかけと適切なトレーニング

そのなかで確かな手応えを感じています。

たとえば小学生のときに私たちのプレゼン授業を受けてくれた上野英恵さん。英検の受験料が年々上がっていたなか、彼女が高校生のときには、受ける級によってはかつてよりも2倍の値上げになっていました。周囲には自分で受験料を払う友だちもいる、このままでは教育格差が広がるのではないか──そんな問題意識を持った彼女は値下げを求める声をあげ、3万5000人以上からオンライン署名を集めました。実際に2022年度の英検受験料は値下げになったのです。

実は彼女、私たちのプレゼン授業を受けた当時はとてもおとなしく、発言も控えめな子でした。しかし授業を通じて、周りの子たちがハキハキと自分の意見を語る姿に感動し、主張することの大切さを学び、人前で話す度胸がついたのだといいます。彼女のお母さんが言うには、6年生くらいから別人のように急に明るくなり、担任の先生にも驚かれるほどだったそうで、そのきっかけは5年生のときに受けたプレゼン・ワークショップだったと感じているそうです。

きっかけと適切なトレーニングさえあればどんな子でも、社会に働きかけるような声もあげられるようになる──彼女のような受講生たちを送り出すたびに私はその思いを強めています。

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このままではますます話せない子が増える

教育現場では2020年以降、学習指導要領の改訂によって、段階的に「主体的・対話的で深い学び」(いわゆるアクティブ・ラーニング)が導入され始めました。思考力・判断力・表現力を重視したカリキュラムに移行しています。さらにGIGAスクール構想によって、小中学校では一人に一台のタブレットが支給されました。

これは追い風になる──そう思った矢先、新型コロナウイルスが猛威を振るいました。教育現場にも混乱をもたらし、せっかくの変革のチャンスを生かせずに苦しんでいる教室も少なくありません。マスクをして飛沫ひまつ感染を防ぐために、クラスは以前に増して静かになり、むしろ指導要領の改訂以前に戻ってしまっていると先生方から危機感をうかがいます。

このままではますます話せない子が増えてしまいます。大きくなったときにもっとその子が自分の可能性を発揮できるように、前述の追い風を具現化しつつ、「話す力」を育む授業を公教育に定着させたいと思っています。

私たちの活動は決して、世界で戦うエリートだけを念頭に置いているのではありません。話せないことで可能性を閉ざしてしまっているすべての人を、取り残さずに支えたいと考えています。

せっかく努力してきたのに、最後の最後に「話す力」が足りずに思いが実らない子どもを一人でも減らしたい。

話す力を鍛えられた子どもたちが、自分で自分の世界を切りひらけるようにしたい。