自己保身に走る議員が出始めている

一方で、それ以前に痛手を被るのは安倍派だ。裏金化疑惑の事件化に対する党内外の反応は厳しく、派としての統率力や危機管理、自浄能力も問われるからだ。

防衛副大臣を辞任した宮沢博行氏(写真=防衛省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

防衛副大臣を交代させられた宮沢博行衆院議員は13日、派閥側から3年間で140万円の還流を受け、政治資金収支報告書に記載しないでいいとの指示があったこと、この件について口止めされたことを、国会内で記者団に明らかにした。これは議員本人が派閥事務所で派閥の会計責任者から現金でキックバックされ、収支報告書への不記載を指示されたことを意味するのではないか。

宮沢氏は「派閥が皆そろって身の潔白を証明していこう、ちゃんと修正していこうとリーダーシップを早く取ってもらえれば、私も仲間を裏切って説明することはなかった」と述べ、安倍派上層部に責任を転嫁した。これは、自身の違反行為は派閥からの指示に従ったものだとし、自己保身に走る議員が出始めたことを意味する。

鈴木淳司前総務相(安倍派)も15日、これまで否定していた還流を実は受けていた、と記者団に明らかにした。5年間で60万円の還流を受けていたという。鈴木氏は政治資金規正法の所管閣僚だったにもかかわらず、「巨額の裏金は受け取っていないという認識だった」「派閥から自動的に戻ってくるお金は(政策)活動費だと思っていた」と弁明した。

政策活動費は、党から議員に支出される政治資金で、収支報告書に使途を記載する必要はないが、派閥を経由して渡されることはない。言い訳になっていないではないか。

派から30人抜けても不思議はない

安倍派は正念場を迎えている。「5人衆」ら所属議員は今回、要職を外れたが、何をどうしたら復帰できるのか、無罪か不起訴が確定するまで待たないといけないのか、その辺りのルールやメドは立っていないからだ。

安倍派幹部が当面、要職に就けないとなると、派閥運営にも支障が出てくる。派閥の資金パーティーでの収入が望めず、総裁選に自派候補を擁立できない、中堅・若手にポストも提供できない、という苦境が続く。

今回、仮に無罪や不起訴になっても、市民団体から検察審査会に審査を申し立てられてしまう。そこで略式起訴され、罰金刑から公民権停止になる可能性も否定できず、政治活動が制限されてくる。

派内では当初から5人衆による集団指導体制に対する中堅幹部の不満がくすぶる。何でも5人衆だけで決定し、その内容を派内に伝えないというのだ。その5人衆も一枚岩ではない。岸田首相との距離感も異なる。事件の進展次第では、5人衆や派閥に亀裂が入る可能性もあるだろう。

中堅・若手から見れば、安倍派から資金もポストも得られなければ、派にとどまるメリットがほとんどない。国政選挙で安倍派を名乗るよりも無派閥で戦うほうが有利だと判断すれば、現在99人が在籍している安倍派から20~30人が抜けても不思議はない。