赤旗の裏金疑惑報道は1年前から
安倍派については、12月12日の朝日新聞や共同通信が、直近5年間で所属議員にキックバックした裏金の総額が約5億円に上る疑いがあると報じている。規模や組織性、継続性は際立っており、特捜部は安倍派を最大の標的に立件を目指すものとみられる。
ことの発端は、2022年11月に共産党機関紙・しんぶん赤旗が、自民党主要5派の政治資金パーティーの収入のうち3年分計約2500万円が政治資金収支報告書に不記載だった疑惑を報道し、上脇博之神戸学院大教授が政治資金規正法違反の疑いで告発したことだ。
東京地検特捜部がこれを受けて捜査を始め、23年の通常国会閉幕後の6月下旬から各派事務局長らに事情聴取し、安倍派の「闇」を概ね把握していたという。
見方を変えれば、これらの事情聴取の内容は自民党の顧問弁護士に報告され、岸田首相や党執行部にも上っていたはずだが、危機管理の観点からの対応はなぜか取られていない。これが衆院の年内解散見送りという首相の判断ミスにつながっている。
自民党内では、安倍派ほどの規模ではないが、二階派や岸田派でも、パーティー収入の過少記載の疑いが指摘されている。
12月19日には、安倍、二階両派の事務所に東京地検特捜部が捜索に入った。派閥の資金疑惑に踏み込むのは、2004年に発覚した日本歯科医師連盟から当時の橋本派(平成研)への1億円闇献金事件以来のことだ。
なぜ収支報告書に記載しなかったのか
首相は12月14日の認証式後、政治資金をめぐる疑惑について、記者団に「実態を把握し、原因と課題を抽出していかねばならない」「党全体として信頼回復に向けて努力していく覚悟だ」と強調した。後は実行あるのみだ。
派閥が政治資金パーティーを開催することも、所属議員にキックバックすることも、政治資金収支報告書に記載さえすれば、適法の範囲内にある。なぜ記載しなかったのか。誰が指示したのか。ここがポイントだろう。だが、党も派閥も所属議員も、説明責任を果たそうとしていない。
暴走老人も登場した。安倍派の谷川弥一衆院議員が、12月10日に4000万円超のキックバックがあったとの報道を受け、地元・長崎市内のテレビカメラの前で「事実関係を慎重に確認している。適切に対応する」などと用意された原稿を読み上げた後、記者の重ねての質問に「頭悪いね。言っているじゃないの。質問してもこれ以上、きょう言いませんと言っているじゃない。分からない?」と逆切れした。記者も有権者も虚仮にされたものだ。
自民党執行部は谷川氏に注意もしない。党として事実関係を調査し、説明するつもりがあるのか。信頼回復に向けて何をするのか。その覚悟と手順が見えない。