教育現場で問題になっている「小一プロブレム」

じつは、2011年までは中学校の発生件数が飛び抜けて多く、小学校の発生件数は高校よりはるかに少なかったのである。2012年から小学校での発生件数が増え始め、ついに2013年に高校を抜き、その後も急増が続き、とうとう2018年に中学校を抜き、今や中学校や高校の発生件数をはるかに上回るようになってしまったのである。

自分の思い通りにならないと、つい暴力を振るってしまう。そんな小学生が急増しているのである。それも凄まじい増え方となっている。こうした現状をみれば、子どもたちの自己コントロール力がいかに未発達であるかがわかるだろう。

自己コントロール力の未発達は、暴力にかぎらず、小一プロブレムなどといって、幼稚園から小学校への移行でつまずく子どもが多いことにもあらわれている。授業中に席を立って歩いたり、教室の外に出たりする。あるいは、授業中に騒いだり、暴れたり、注意する先生に暴力を振るったり、暴言を吐いたりする。このように遊び中心の幼稚園生活から学び中心の小学校生活への移行につまずき、不適応行動に走ってしまうのも、自己コントロール力がうまく機能していないことを示している。

東京学芸大学「小一プロブレム」研究推進プロジェクトにおける調査では、小一プロブレムの発生理由として、「家庭におけるしつけが十分でない」が筆頭にあげられており、「児童に自分をコントロールする力が身に付いていない」と「児童の自己中心的傾向が強いこと」を合わせた三つが主要なものとされている。

先生が子どもを叱れなくなっている

そうした問題への対応として、授業を子どもにとってもっと楽しいものに工夫する試みが奨励される風潮があるが、そのような場当たり的な対応でやり過ごすと、子どもたちが将来生きづらさに苦しむことになりかねない。

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自分の衝動をコントロールできない。感情をコントロールできない。自制できない。自己中心性から脱却できない。相手の立場や気持ちを想像できない。コミュニケーションがうまくいかない。そうした子どもの側の要因を無視して、授業を楽しくしたり、ほめて気持ちよくさせてあげるなど先生の対応をよりやさしくしたりしても、子どもの自己コントロール力の向上にはつながらない。

かつては子どもの自己コントロール力を鍛えるのを学校の先生に期待することができたが、今ではそれはまったく期待できない。先生がちょっとでも厳しいことを言うと、子どもの心を傷つけたといって、保護者からクレームがついたり、マスメディアが問題視したりしかねないため、学校の先生たちは萎縮しており、子どもたちを鍛えるという教育的働きかけをしにくい時代になっている。