「安倍支持層」との連携が存在感を高める
最大の課題は、総裁選出馬に必要な推薦人20人を確保できるかどうかだ。前回は安倍氏の支持を得て推薦人確保に苦労しなかったが、今回は自力で集めなければならない。そこで現職閣僚としては異例となる勉強会を旗揚げし、露骨に推薦人確保に動き出した。初回は安倍派3人を含む13人が参加。世耕氏は「現職閣僚がこういう形で勉強会を立ち上げるのは、いかがなものか」と公然と批判し高市氏を牽制した。
安倍支持層に人気の作家・百田尚樹氏が日本保守党を旗揚げしたことも高市氏には追い風になった。同党は各地の街頭演説で大勢の人を集め、X(旧ツイッター)のフォロワー数で自民党を追い抜いて既存政党のトップに躍り出た。同党支持層には高市氏との連携に期待する声も多い。菅氏が維新と、麻生氏が連合と連携して政局の主導権をつかもうとしてきたのと同様、高市氏も日本保守党との連携をちらつかせながら自民党内での存在感を高めることが可能になったのだ。
そこで炸裂した安倍派の裏金事件は、さらなる追い風になるとみられる。石破氏と同様、無派閥の立場から「脱派閥」を訴えることができるだけではない。高市氏をライバル視して敬遠してきた5人衆が「全滅」して影響力を失えば、安倍派は分裂含みとなる。安倍派でも右寄りの議員に高市氏支持が広がり、安倍派分裂→高市派結成の動きに発展する可能性もあるのだ。
高市氏が「次の首相候補」に躍り出る可能性も
来年の総裁選で「麻生氏が担ぐ茂木氏vs.菅氏が担ぐ石破氏」に第三極として参入し、キャスティングボートを握ることは十分に可能である。どちらが勝っても高市氏が新政権で要職に踏みとどまる公算が高まるだろう。
さらに派閥政治や世襲政治への批判が過熱し、麻生氏が担ぐ茂木氏だけではなく菅氏や二階氏に担がれる石破氏も失速する展開になれば、行き場を失った安倍派の右派議員たちが「脱派閥・脱世襲」を掲げる高市氏支持に雪崩れ込み、有力候補に躍り出る展開もあながち否定できない。
安倍派の裏金事件は自民党の勢力地図を大きく塗り替え、シナリオなき党内闘争の幕開けとなろう。主流3派を後押しする「国策捜査」は、その思惑を超えて予期せぬ方向へ日本政界を導くかもしれない。動乱の政局が始まった。