個人店の工夫
東京都内の店を紹介してきたが、地方の個人店はどんな状況なのか。
石川県金沢市の近郊にある河北郡・内灘町の海沿いに店を構えるのが「カフェドマル(Café de Maru)」だ。都市銀行に勤務していた満留仁恵店主が、コーヒー焙煎や仕入れなどを学んだ後、2008年に開業。今年で開業15周年を迎えた。
「当店では、コーヒー豆の仕入価格が約16%上がりました。今までにない価格で驚きましたが、原料高騰、政情不安と海上輸送網の混乱による運賃の値上げ、さらに急激な円安が重なったことから、仕入価格の改定は仕方ないかな、と思いました」
こう話す満留氏は、「コーヒー豆の価格上昇の要因には、ほかにも『人口が多い中国やブラジルのコーヒー消費拡大』『米国や北欧のスペシャルティコーヒー消費増加による高品質コーヒーの品薄』なども影響しているようです」と説明する。
光熱費など諸経費高騰もあるなか、店としてどんな取り組みをしたのか。
「看板メニューのブレンドコーヒー(税込み550円)は値上げしませんでした。常連のお客さまが多く、住宅街という立地もあり、ふらりと立ち寄りやすい価格を維持したいと思ったのです。コーヒー豆の品質や風味、提供するコーヒーの量も変更していません。1杯ずつハンドドリップで丁寧に抽出するスタイルも、そのままです」(同)
今年5月、ブレンド以外のコーヒー(キリマンジャロやグアテマラなど)、アレンジコーヒーや紅茶、ケーキやサンドイッチなどのメニューは値上げした。お客さんは受け入れてくれたようで客足も伸びた。値上げに対するクレームは入っていないという。
店は減る一方、豆の輸入量は安定
コーヒー専門店を含めた「喫茶店」の数は減り続ける。総務省統計を基にした全日本コーヒー協会の公表データで示すと、この40年では以下のとおりだ。
・「12万6260店」 1991(平成3)年
・「6万7198店」 2016(平成28)年
・「5万8669店」 2021(令和3)年……最新の数値
一方、コーヒー需要は拡大しており、たとえばコーヒー輸入量は、直近の2022年は44万4610トン。1980年の2倍以上で、2000年に40万トンの大台に乗ってからは、23年連続で40万トン超だ(いずれも生豆換算の合計。財務省「通関統計」をもとにした全日本コーヒー協会の資料)。
喫茶店数が激減する一方で、コーヒー輸入量は安定している。業界は活性化しており、若い世代の参入も目立つ。コロナ禍以前は市場規模も拡大していた。
東日本大震災の翌年から東北に足を運び、復興企業を取材してきた筆者は、被災して仮店舗営業中の店で「やっとコーヒーが飲めるようになった」という被災者2人に出会った。
円安で業界を取り巻く環境は厳しいが、コロナ明けの通常生活が戻った今、ひと息ついて「やっとコーヒーが飲める」日常を提供する店が残ってほしいと願っている。