コロナ前より売り上げが伸びたが…

東京・銀座にある「カフェーパウリスタ」は“現存する国内最古”の喫茶店だ。

店名がカフェではなく“カフェー”なのも、1911(明治44)年に開業した時代性を感じさせる。パウリスタはポルトガル語で“サンパウロっ子”の意味で、ブラジル・サンパウロのコーヒーにこだわる店として開業した。ただし当時の店は関東大震災で倒壊したため再建せず、1970(昭和45)年に創業地に近い場所で再開。再開後も53年の歴史を刻む。

「コーヒー業界は、コーヒー相場と為替相場の影響を受けますが、円安は本当に厳しい。1ドル115円が150円になると単純計算で輸入価格が3割変わりますから、大打撃です」

カフェーパウリスタを運営する日東珈琲の長谷川勝彦社長はこう嘆く。同社は関東大震災後に、コーヒー豆の輸入・焙煎業に主軸を移して営業を続け、戦前は海軍にもコーヒーを納入した。現在はホテル納入などの業務用と、通信販売の小売り(家庭用や職域用)が強い。

5代目社長の長谷川氏は上智大学外国語学部卒業。ポルトガル語、スペイン語、英語が堪能でコーヒー産地に出向き、現地の生産者と対話を重ねて、良質なコーヒー豆を買い付けてきた。看板商品は無農薬栽培にこだわり通販でも人気の「森のコーヒー」で、サンパウロ州の農園主・ジョン・ネット氏らの生産者グループから年間150トン以上を直接買い付ける。

「売上高はコロナ前の2019年比で約105%になりましたが、利益幅は減っています。近年はコロナ禍に加えて、コーヒー豆の最大生産国・ブラジルの霜害そうがい(2021年)による影響、コーヒー生産国の労働環境問題などもある。リスクヘッジに気を配る日々です」(長谷川氏)

現存する最古のコーヒー店「カフェーパウリスタ」
筆者撮影
現存する最古のコーヒー店「カフェーパウリスタ」

客層の大きな変化

「カフェーパウリスタ銀座本店は、客数・売り上げともにコロナ前2019年比で約120%となりました。特に土日の朝はインバウンド(訪日外国人客)の方も多いです。この店は、旅慣れていて日本文化もご存じの欧米系のお客さまが目立ちます。一方で、コロナ前は全体の約6割が常連客でしたが現在は約4割、その分、若い世代が増えているのが特徴です」

店長の矢澤秀和氏はこう話す。日本中が外出自粛となった2020年は4月10日から営業自粛に追い込まれ、5月20日に1階店舗が再開、6月1日から2階部分も含めて再開したが、コロナ感染防止のため座席間を広げ、営業時間も短縮するなど、しばらく苦労した。2022年秋からようやく回復したのだ。

「ブラジル・サンパウロのコーヒーという“軸足”を踏まえつつ、現在は、『森のコーヒー』『パウリスタオールド』(各税込み770円。お代わりコーヒーは同300円)、『パリ祭』(税込み800円。お代わりは同300円)の3本柱を中心に提供。『コスタリカ ブラックハニー』(ポットサービスで1100円、ミニケーキ付き1300円。取材時は売り切れ)、『クラシック・ジャバ』(ポットサービス1000円、ミニケーキ付き1200円)も人気です」(同)

今回の取材は、平日午後に銀座本店で行った。店内はコロナ禍当時よりも盛況で、各テーブルで談笑するお客さんの姿が印象的だった。

「カフェーパウリスタ」のコーヒーとスイーツ
筆者撮影
「カフェーパウリスタ」のコーヒーとスイーツ