彼の家族への違和感

片桐さんが彼の家族に覚えた最初の違和感は、離婚歴に対する価値観の違いだった。

「当時の私は、まだ彼の母親や姉のことをよく知らなかったので、呑気なものでした。しかし彼の姉も離婚歴があると聞いていたのに、私の離婚歴をやたらとディスることに違和感を持ちました」

彼が片桐さんのことを話したところ、母親と姉は、「バツイチであなたに近づくなんて財産目当てに決まってる! 財産をしぼりとった後、あなたのことを捨てるつもりに違いない! バツイチの女なんて絶対に反対だ! バツイチの嫁が来るなんて恥ずかしくて外を歩けない!」と怒り狂い、「絶対に会わない! 電話もしない! 一切関わりたくない!」と頑なに拒絶。

加えて彼の姉は、「バツイチなんだから、それをわきまえて、妊娠してから結婚の許しを得るべきでしょう?」と言ってきた。

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さらに母親は、あろうことか片桐さんの両親に対しても、「バツイチの娘をうちの立派な息子にもらってもらうありがたみがわかってないわ。息子の経歴を傷つけるんだから土下座しにくるべきよ」と言った。以上、すべて片桐さんが彼から聞いたことだが、おそらく事実だろう。

「彼の母親は自分の娘が離婚しているし、姉は自分に離婚歴がある。それにかかわらず、他人の離婚歴をここまで非難できるなんて、価値観がだいぶ違う人たちだなと戸惑いました。まだ会ったこともない私に対してここまでイメージに偏りがあることに驚き、『自慢の息子』と言いながらも『息子がバツイチの女性に騙されて、お金を取られた挙げ句に捨てられるかもしれない』という心配をするということにも疑問を感じました」

彼経由で理由を聞くと姉は、

「自分も離婚しているから離婚がダメだとは言わないけど、普通、離婚したら自分の何がいけなかったか振り返るのに10年くらいは必要だし、同じ過ちをしないという保証がない限り簡単に再婚など考えられないはず。そんなすぐに再婚だなんて怪しい。またすぐに離婚する可能性がある。年老いた母を心配させるようなことはやめたほうがいい」

と言ったらしい。

「彼の姉は、離婚歴よりも再婚を考えることに不快感があるようでした。自分も離婚しているから離婚する人の気持ちは理解できるけど、再婚する人の気持ちは理解できないから反対ということなのでしょう」

それにしても彼の母親は、やたらと彼の財産を心配しているように感じる。不思議に思った片桐さんが彼に、「お母さんから『財産目当て』というワードがよく出てくるけど、あなたはそんなに資産家なの?」とたずねると、彼は言った。

「家族の中で俺が一番年収が高いというだけで、資産家なんかじゃないよ。おふくろは君が、俺の収入目当てで結婚しようとしているんじゃないかと心配しているんだと思う」

片桐さんは、「それってつまり、息子・弟の収入は自分たちのものって思ってるから、誰にも渡したくないってことなのでは……?」という疑いを持った。