1億貯めるために節約生活が始まる
(前回からつづく)
バブル期に青春を謳歌した平成バブ子さんは、大学卒業後結婚したイケメン資産家との間に一人娘も産まれ、何不自由ない専業主婦生活を送っていました。
持ち前の才覚とバイタリティを生かし立ち上げた幼児教育の事業も軌道に乗り始め、人生は順風満帆に思われたころ、彼女は夫ジュンイチの特異な性格に違和感を抱くようになります。
「これからは毎月50万円貯金をしよう!」
夫がいきなり宣言したのです。
それまでも時計やフィギュアにハマって収集する癖はありました。しかしまさか、収集対象が「現金」になるとは!
貯金をするのは老後の不安に備えて、というのが彼の主張でした。投資はリスクが大きく怖くてできない、元本割れしないのは「やっぱり現金」と言うのです。
確かに毎月50万で年600万、10年で6000万。40歳過ぎから始めれば60手前で1億円貯まる計算です。
そうして夫の旗振りの下、バブ子さんの節約生活が始まりました。「なんかおかしい」と思いつつも、ジュンイチのルックスにとことん惚れて結婚した彼女は従うのでした。
一度惚れると実は一途で可愛いのが、バブル娘なのです。
「実家から500万円出してもらえ!」
ジュンイチは妻が働くことには寛容でした。田舎で育った男尊女卑男とは異なり、都会のお坊ちゃんを感じさせます。成り上がり男がこだわるちっちゃなプライドとは無縁。しかし甘やかされた男の子にありがちな、どうしても欲しいものは泣きわめいてでも手に入れたい幼稚性が彼にはありました。
バブ子さんが立ち上げた個人塾は徐々に評判を呼び、事業を拡大してゆきます。
生徒募集はもちろんのこと、資金調達、スタッフの教育・養成などやることは山ほど。正直、夫にかまっている暇などありません。
そんな彼女に親身にサポートしてくれる男性が現れます。バブ子さんよりふた回りほど年上の実業家A氏でした。長年教育産業に携わり、事業計画や資金面のアドバイスもしてくれる彼に、彼女が惹かれないわけがありませんでした。
しかし家庭のある身。矩をこえずに節度ある関係を続けます。
「貯金」に夢中な夫ジュンイチは無論そんな妻の変化に気づきもせず、夫婦生活も定期的にこなしていました。
そのころ、娘の留学が決まり、渡航費用や学費で500万円必要となりました。すると、
「バブ子の実家から500万出してもらえ!」
ジュンイチが言い出したのです。
自分たちの「貯金」からは1円も出したくない、と。
夫の実家も事業をやっていたのでお金が無いわけではありません。ただその事業も時代の風にさらされ幾分傾きかけていたので、彼には不安があったのでしょう。妻の実家へ留学費用を求めたのです。