家族のピンチは家族のチャンス

2022年12月、息子が1歳の誕生日を迎えた。

「まれな難病にかかった母は、施設入所を希望しても病名だけで受け入れてもらえず、療養先の選択肢自体がほとんどありません。また、コロナ禍で面会できないことから、『治療法のない病気なので、病院で1人寂しく最期を迎えるよりも、自宅で大切な家族の存在を感じながら旅立ってほしい』と私たちは思っていますが、母との関係性が薄い父方や夫の親族は、私たちの思いや背景を知らず、中途半端な知識だけで助言をしてきます。手を貸さないのであれば、口も出さないでほしいと思います」

主介護者である鈴木さんは、同居する夫や父親と毎週のように家族会議を開き、母親の介護や直面している問題について話し合い、つらい思いを共有してきた。

「介護を始めたばかりの頃は、“察してほしい”と思っていましたが、1年ほど一緒にダブルケアをしてきて、経験のないことを理解したり想像したりするのは容易ではないとわかりました。きちんとこちらから言葉にすることで、夫や父からの共感が得られやすくなり、精神的な支えとなってもらえたと思います」

家族の足並みをそろえることで、

①いろいろなことがうまく回り、ストレスが減る
②話し合うことでより良い考えや方法が見つかる
③お互いに感謝の言葉が増える

というメリットがあると鈴木さんは話す。

また、家族だけでなく、在宅療養を支える訪問看護師やケアマネ、保健師たちも、鈴木さんにとってなくてはならない存在となっていたほか、母親と同じ病気の患者を支える家族とのつながりを持つことで、励まされることも少なくなかった。

「私が欲しかったのは『助言』や『意見』ではなく『共感』でしたから、話を聞いてもらえたり、思いに寄り添ってもらえたりすることが何よりも救いでした。全て1人で抱え込み頑張りすぎるのではなく、『ここまでは自分で頑張る』『これは社会資源に頼る』『自分の体調が悪いときは自分の体を優先する』といった自分の中での軸をしっかりと持ち、依頼できることは依頼し、多少の諦めや割り切りを持つことで、心身の負担が軽くなり、長期介護の実現につながるのだと思います」

鈴木さんは、「たとえ私の不在中に母が亡くなったとしても、全ての責任を持つ心構えができています」と腹をくくっている。

入院していた時は、リハビリを拒否し、泣いてばかりで言葉も出なくなってしまっていた母親は、鈴木さんの自宅に帰ってきてからは笑顔や発語が戻り、手つなぎで部屋の中が歩けるようになった。

母親が「余命数カ月~2年」と宣告された時の父親は、心身共に弱り、引きこもりがちになっていた。しかし、母親の残りの人生を「自宅でできるだけ一緒に過ごす」と決めてからは、どんどん元気になり笑顔を見せるようになった。母親が無言無動状態となった現在でも「お母さんはそばにいてくれるだけで良い」「安心する」と話す。

「愛犬と一緒に寝られることも、在宅療養の特権ですよね。母が楽しく幸せそうに過ごしている姿を見たら、『これだから在宅療養はやめられない』とやりがいを感じてしまいました」

写真=iStock.com/Nataba
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