出生数70万人時代に見合った高齢者福祉の見直しを
2023年10月、岸田文雄政権は大々的に「所得税4万円減税」を喧伝する一方で、10月24日の厚生労働省の年金部会では「想定外の少子高齢化」を理由に「年金支払期間を5年間延長」「2025年に法案成立」がコッソリ提案している。実行されれば、現役世代にとっては約100万円のさらなる社会保障費負担となる。「異次元の少子化対策」も、原資は「医療保険料」に上乗せする案が有力だが、結局のところ「現役世代から集めて返すだけ」という疑念は晴れない。
厚労省が11月7日公表した人口動態統計によると、2023年1~6月に生まれた赤ちゃんの数は前年同期比4.1%減の35万2240人だった。少子化傾向が変わらなければ、2023年の出生数は約70万人となる可能性が高い。一方、2025年には「団塊の世代(1947~50年生まれ)が全て後期高齢者」となるが、医療水準を落とさないまま1学年200万人の老後を70万人の世代で支えることは不可能である。
「北欧には寝たきり老人はいない」「他の先進国では高齢者が口から食べられなくなったら自然に見送る」とは10年以上前から報道されているのは事実だが、日本ではほとんど浸透していない。
端的に言って「食事をうまく飲み込む力がない」とは自然な老化現象である。もちろん「後期高齢者の誤嚥による死亡」は痛ましいことであり、その中には明らかな「介護士のミスや怠慢」もあるかもしれない。家族の立場になれば、極力避けたいことだ。しかし、前述したように現状の高齢者3人に介護スタッフ1人という配置の中ではケアには物理的な限界があり、結果的に「誤嚥」を防げないこともありうる。そうした事故が増える中、「誤嚥=老衰」と考えてもしかたない案件もあるのではないか。
私は以下の内容を岸田政権にぜひ実践してほしい。まず、「安易なバラマキ(+コッソリ社会保険料値上げ)」をやめること。そして、実現不可能な医療・介護水準を求める司法判断に再考を促し、身の丈にあった高齢者福祉を提案すること。その上で、死生観の見直しや、穏やかな終末期についても広く日本社会全体に再考を促すこと。
こうしたことこそが、めぐりめぐって真の少子化対策となる。そう信じて疑わない私と同じ思いを胸に抱く医療・介護関係者は少なくない。