なぜ今すぐに実施できない「減税」なのか

このような歪みは経済対策の内容そのものにも影響を与えている。

それが、国民からの評判も悪い「減税政策」である。

今回の経済対策で最も注目されているのは、国民に直接恩恵が届く減税、給付金政策だ。

低所得者には世帯に対して、これまでの支援と合わせて10万円を給付する一方で、それ以外の国民には所得税や住民税を1人計4万円減税するものとなっている。

給付金は年内から年明けにかけて迅速に配布する一方で、減税は来年6月に実施される予定で、物価高対策としての即効性の低さが批判されている。

ただ、岸田首相に言わせれば、実は減税は物価高対策ではない。

岸田首相は記者会見で、給付金は「緊急的な経済支援対策」である一方、減税は「本格的な所得向上対策」と説明している。

記者会見する岸田文雄首相。次々と「経済対策」を発表しているが、岸田政権の支持率低迷が続いている(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

つまり、給付金は現在の物価高に対応するための支援である一方、減税は来年6月のボーナスのタイミングに実施されることで「給与明細の金額が増えて所得が上がった」と実感してもらうために行われる。

そして、「所得が上がった」と実感してもらうための減税こそ、賃金が増えて景気の好循環を生む「デフレ完全脱却」にかこつけられているのである。

経済対策がズレている根本原因

だが、現在の物価高に苦しんでいるのは低所得者だけではない。

厚労省が7日に公表した毎月勤労統計によると、今年9月の実質賃金も昨年の同じ月と比べて2.4%減となり、18カ月連続でマイナスとなっている。

中間層を含めた多くの国民が物価高で苦しんでおり、一刻も早く給付金などの支援を受けたいと考えているはずだ。

しかし、岸田首相が「デフレ完全脱却」にこだわるあまり、多くの人々が恩恵を受けるには、来年6月の減税まで待たなければいけなくなってしまった。

物価高の経済状況をポジティブに捉え、デフレからの脱却に重心を置いて経済対策を打とうとしている岸田首相と、物価上昇によって生活が苦しくなり、一刻も早い支援を求めている国民との間に大きな乖離かいりが生じている。

この乖離こそが、岸田首相の経済対策が、国民生活から大きくズレてしまっている根本原因だと言えるだろう。