両親と法廷で争う

東京で一人暮らしを始めた柿生さんは、コロナ禍でピンチに陥っていた。

重度のアレルギー疾患と母方の遺伝由来の不整脈傾向がある関係で、感染症系はほとんど高リスク群に入るためマスクが手放せない。そのうえ、上京してから3年ほどの間に、けがや病気で3回入院しているのにもかかわらず、病歴や予防接種などのデータが手元にない。

親族や友人に相談したところ、「(乳幼児の頃に受けた医療情報が記載されている)母子手帳を局留めで送ってもらったら?」と言われる。

2023年3月、柿生さんは両親に手紙を書き、現住所を知られないよう、特定記録郵便で送付。その内容は、万が一、柿生さんの現住所が両親に知られていた場合を想定して、「現住所のデータをすべて削除してほしい」「母子手帳を局留めで送ってほしい」というもの。これで両親から4月までノーリアクションの場合は、5月以降に必要な書類をそろえ、6月ごろをめどに調停を起こすことを決意していた。

そして6月。両親からは音沙汰なし。柿生さんは「親族関係調整調停」を起こした。

「『親族関係調整調停』とは、要は身内の喧嘩を調停員を交えて、うまく解決に導くというものです。調停の中ではあまり見られないものですが、『親族関係調整調停』を行ったという法的な事実ができるので、毒親対策の1つとしては有効かと思いました」

柿生さんはすでに両親の戸籍から自分の籍を抜く、分籍は行っていた。

柿生さんは、

・現住所のデータをすべて消すこと
・母子手帳の引き渡し

この2点に絞って申し立てを行うことにした。

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家裁に申し立ての書類を無事提出すると、第1回調停の日を迎えた。

柿生さんが東京で暮らしていることから、調停は電話で、申立書とその他の証拠を確認しながら進める形で行われた。

まず、母子手帳について聞かれた柿生さんは、大人になってから咳喘息や慢性の気管支炎、発達障害の2次障害で双極性障害や重度の逆流性食道炎になったこと。最近高熱と腹部の激痛でかかりつけ医に行ったら、盲腸(重度の虫垂炎)と診断され、即開腹手術になり10日間入院したこと。左足だけで3回手術して、まだリハビリが終わらないこと。そして、新型コロナに限らず、感染症はほぼ高リスク群なのに予防接種の履歴がわからないことを話し、そのデータがあるはずの母子手帳を持っておきたい。ということを話した。

次に現住所のことを聞かれた柿生さんは、親に把握されていることが精神的に苦痛であることや、両親に予告なく訪問されるのではないかと常に不安感が常にあると伝えた。

だが、「実は住所の削除は調停事項になりにくいので、連絡などを行わないという方向でいきたいのですが、いかがでしょうか?」

と提案されたため、柿生さんは渋々了承。いったん終了し、約30分後に再開したが、結果、「両親は、長女の自宅付近に行ったり、メールや電話連絡をしたりしない。母子手帳は8月末までに指定の郵便局留めで発送する」と、柿生さんの要望がすべて通った形で閉廷した。

「もめて2回目、3回目もあると思っていたので想定外でした。恐らくですが、父は体調不良で、フィリピン人の母は調停内容がよくわからなかったのでしょう。向こうも早く終わらせたいという気持ちだったのかもしれません」

手元に母子手帳が届くと、柿生さんは封筒の文字に驚いた。

「父はもともと悪筆ですが、それに増して字がめちゃくちゃ間違っていました。字もブレブレなので、相当体調が悪いのかもしれません。私にとって母はクソなので、たぶんあの世に行くときは万歳三唱しますが、父と妹はまだ尊敬できることもあるので、たぶん泣くと思います」