安易に親と子の距離を縮めようとしてはいけない

具体的には、親と子が穏やかな時間を過ごせるようにするために別々の時間を多く設けるなどです。なにかのきっかけによって起こる「暴発」から子の身の安全を守ります。

並行して、親側のストレス要因を減らしていきます。子育ては、こなさなければならない煩雑な作業がたくさんあります。料理、家事、保育園・幼稚園・学校などへの諸手続き……。

こどもが原因で手を煩わされていると思ってしまって、自分の欲求が満たされない不満の矛先が、こどもへと向くことがあるようです。なので、こうした要因になりうるストレスを取り除いていく必要があります。そうすることで、親と子の適度な距離を保つことができます。無理に距離を縮めようとしてはいけないのです。

一方、うつ病による育児不安などの問題がある場合に大切なのは精神科治療です。薬物療法だけでは不十分なので、深いカウンセリングの導入も検討するといいでしょう。なぜ育児と将来に悲観してしまうのかの糸口がつかめれば、やがて回復していくはずです。

以上はカウンセラーとしての私の経験です。

児童虐待は法律の規制の範囲外で起きている

福祉的ニードを充足しないまま親と子の距離を縮めようとしてしまったこと、うつを抱えている人に余計ながんばりを強いてしまったことが、私にもありました。

いずれも、親子ともに、支援者であるはずの私が追い詰めてしまったのです。親らしくあってほしいという願望が、私にそうさせてしまったようです。

植原亮太『ルポ 虐待サバイバー』(集英社新書)

重要なのは、親が持っている能力以上のことをさせないようにすることです。

「親の責任を果たしてほしい」と思わずに割り切って、できない部分は誰か(どこか)が補うことも大切です。私は度々、これが虐待の抑止力になることを実感しています。

児童虐待は、法律で規制できる範囲外のところで起きているのです。そのことを私に教えてくれたのは、児童虐待を生き延びた“サバイバー”たちでした。

私たちができることは、児童虐待を「規制」することではなく「理解」することなのではないでしょうか――。

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