虐待の原因は「共感性の欠如」と「感情のコントロール不全」

精神科医の視点で児童虐待を分析した高橋和巳医師は、「心中以外の虐待死」を招く親の多くは「共感性の欠如」と「感情のコントロール不全」があると指摘しています(『「母と子」という病』ちくま新書を参考)。

児童虐待は法律上では、身体的虐待・性的虐待・ネグレクト(養育放棄)・心理的虐待に分類されます。実際の虐待を分析していくと親側の「共感性」と「感情」の出方によって虐待の表出加減に差があるという印象です。これは私の経験です。

それがどういうことなのかというと、たとえば次のようなものです。

2歳になるこどもが夕食の時間になっても食べ始めません。「いや! いや!」と言っておもちゃで遊び続けています。思い通りにならず、段々と苛立ってきます。そこでこどもをビンタして、床に引き倒して「ムカつくやつだ!」と怒鳴りながら、足でこどものお腹を踏みつけたとします。

ここで起きているのは身体的虐待と心理的虐待です。「共感性の欠如」により幼いこどもを積極的に痛めつけることができ、かつ「感情のコントロール不全」によって親の苛立ちという一方的な理由で暴言と暴力に至っているのです。

法律や条例による厳罰化は虐待やネグレクトを防げるか

次の例です。

炎天下に車内でこどもを長時間にわたって放置する、重大な病気やケガに気づかず(気づいていても)病院に連れて行かない……。これらはネグレクトと言われるものです。先の例のような「感情のコントロール不全」による暴発的かつ衝動的な暴力や暴言こそないものの、完全にこどもの心身の健康は無視されています。「共感性の欠如」だけが目立っているのです。

車のリアウィンドウから外を見ている、一人で社内にいる子供
写真=iStock.com/PetrBonek
※写真はイメージです

ちなみに性的虐待は、それが「ある」だけでも異常事態です。これらの共通点は、異常事態が放置され続けていることです。子の様子がおかしいことに対しての介入がないのです。

話を戻します。

「心中以外の虐待死」では、こどもの死亡事例は0歳児が最多です。直接の死因は頭部外傷と頸部けいぶ絞扼こうやく(首絞め)以外による窒息(うつ伏せのまま寝かしていたことによるものなど)で、虐待の類型は身体的虐待とネグレクトがもっとも多くなっています。

ときおり私たちが目にする悲惨な児童虐待のニュース。この背景には、こういった問題が隠れているのがお分かりいただけたと思います。

では果たして、法律や条例の改正や厳罰化は、これら身体的虐待やネグレクトの抑止力となるのでしょうか。