会社員は「変動と独立」への適応能力を失った

さて、我々は強烈な喪失体験など味わうことなく生涯キャリアを全うしたい。そのためには、このVUCAの時代、会社員は企業の背に腹は変えられぬ事情に振り回されないための備えが必要となる。このような備えは、これから企業と社員が「個人と組織がお互いに信頼を寄せて一体感を醸成し、双方の成長に貢献しあう関係」を目指す上でも必要だ。

筆者は会社員とフリーランスの違いをこのように捉えている。結局、勤続20年以上の会社員は、この20年で何を得て何を失ったのか。より正確には、どのような能力が弱化したのか。

それは、「安定と従属」の対義語である「変動と独立」への適応能力である(そして、この適応能力とワークエンゲージメントには優位な相関性がある)。

安定と従属➡変動と独立:(求められるもの)職業に対する主体性、自律性
職業に対する主体性、自律性➡(得られるもの)ワークエンゲージメント

だが、多くの会社員が一足飛びに安定と従属の対義語「変動と独立」の境地に到達することは難しい。なぜなら、会社員は変動と独立を目指す前に、ある弱点を克服しなければならないからだ。

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行きつけのラーメン店でわかる会社員の弱点

現に今、45歳、またその上の世代の会社員、その多くは文字通り「就社」した会社しか知らない。本来であれば、我々は消費者として、実に様々な職業と関わりをもっているはずなのだが、多くの会社員が「就社人」であり、「消費者」でしかなかったのだ。たとえば、出版業界で働くある編集者が、昔なじみのラーメン屋を今もよく利用しているとする。

おそらくラーメンの味や店への入りやすさ、営業時間、値段、接客などが気に入って足を運んでいるのだろう。だが、果たして当の本人は、次のようなことを考えながらラーメンを食べたことがあるだろうか。

その店の商圏人口
客単価×来店人数による採算ライン
ラーメンや餃子、ビールやハイボールの原価
飲食業や接客業の苦労や面白さ など

仮に、この人物が飲食業に関わっていれば話はまったく変わってくるだろうが、そうでなければ、ラーメン一杯あたりの原価など考えたこともないだろう。同じく、ラーメン屋という接客業と自分の仕事の違いもリアルに想像したことはないはずだ。そして、これこそが「就社人」と「消費者」の間に視点をもたない会社員の実態なのである。

だから職業に対する比較概念も持てないし、職業を相対化することもできない。その職業が好きか、それほど好きでないかも分からない。本来であれば、自分の性に合わない仕事も、それが仕事だからと飲み込んでやってきてしまった。

そんな人材が、いきなり「変動と独立」を迫られると、堅実さや実現可能性などとは程遠い事業計画書を作成したりしてしまうのだ。そうならないために、我々は何をなすべきか。

我々は就社人と消費者の「間」に身を置く必要がある。