「万能家」と「専門家」の欠点

AI時代、色々なことができるということは武器になるか。

企業において、これまでも色々なことができる人材(ゼネラリスト:万能家)と特定のことに精通した人材(スペシャリスト:専門家)について、どちらをどう採用し、育成・活用し、そして処遇すべきかという議論がなされてきた。

ゼネラリスト:幅広い知識や経験を備え、多角的な視点から組織の問題を解決する人材
スペシャリスト:特定の専門分野に深く精通し、専門的な見地から問題を解決する人材

企業としては、このような万能家と専門家が手を取り合って、自社の成長や経営課題の解決に邁進してくれることを期待したのだが、実態は必ずしも期待通りにはならなかった。たとえばゼネラリストは、幅広い知識や経験を備えてはいるが、スペシャリストを活用することができない(専門家の言っていることが分からない)。結果として、彼らの御用聞きに終始するか、もしくは単に組織の利害を調整して取りまとめるだけの役割に終始してしまう。

一方でスペシャリストは、自らの専門的視点に固執し、たとえば問題解決にあたりリスクを過大評価しすぎて、常にブレーキを踏む役割に終始してしまう。ゼロリスク症候群(リスクはゼロでなければならないという考え方に固執すること)も、専門家という立場、もしくは専門的見地の弊害とも言える。

「プロフェッショナル」が求められている

企業は、このような弊害を解消すべく、スペシャリティの範囲についても常に議論してきた(たとえば、コンプライアンスは法令順守を包含したより大きな概念であるが、法務の専門家になるよりもコンプライアンスの専門家になるほうが、企業組織の問題を解決する際の貢献度も高いという認識)。

その過程でプロフェッショナルと呼ばれる職種に注目が集まり、かつスペシャリティの範囲やスペシャリスト人材を再定義する際に、この言葉が使われるようになった。

プロフェッショナル:問題解決志向が強く、これに資する高い専門性、また(これに資する)幅広い知識や経験をもつ人材

企業ではこのように、人材要件をどう定義するかについて議論してきたが、また別の角度から、企業の人事施策に内在するリスクにも注意しなければならない。

ゼネラリストの役割には人材育成がある。そして、その基本は「1.任せる、2.見守る、3.(相手の求めに応じて)介入する」であるが、上司は部下の育成にあたり、自らの権限を移譲し、また部下がある分野の専門性を養う手助けをすることが求められる。ただし、このような権限移譲、専門化にリスクが潜んでいることも心得て対処することが必要だ。

実業家と階段の二重露光
写真=iStock.com/metamorworks
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