「売れる仕組み」に目を向けてみる

具体的な第一歩は、現に勤める会社から(心理的に)離れて、それまで漫然とお金を払って購入してきた商品やサービスなど、消費の周辺にある仕事を真摯に観察することである。なお、観察の対象は、消費者としてだけではなく、現に勤めている会社の取引先でも勿論よい。そしてこれは、マーケティングにおけるリサーチに相当する。

生涯キャリアの自己管理におけるマーケティング発想RSTPBMM
R RESEARCH マーケット調査
S SEGMENTATION 顧客層の細分化
T TARGETING 私の顧客の特定
P POSITIONING 他者との差別化
B BRANDING イメージの浸透
MM MARKETING Mix 製品(サービス)、価格、流通経路、販売促進

これらは、マーケティングにおける一般的な実施ステップであるが、自身のキャリアについて、このようなステップで自分自身の〈売れる仕組み〉を考える会社員に出会ったことはほぼない。実際、このステップを丁寧になぞる必要はないかと思うが、その一部でも自分のキャリアを考える際に参考にしたり、とり入れたりしてみると、様々な気づきや発見があるはずだ。

キャリア形成の基盤になる「3つの問い」

2020年4月以降、筆者のもとにキャリア相談に訪れる会社員が増えた。

いずれも大きな組織に勤めており、役職者として出世街道のただ中にいる人物もいたが、彼らに共通するのは、今後のキャリアに不安を抱えているという点だった。そんな彼らの多くは、筆者がどんなマーケットで飯を食っているか、かなりぼんやりとしか把握していなかったのである。

そのため、彼らに対して、講師業やコンサルティング業を説明するための資料として「上場企業品質講師 心得」を作成した。そして「心得」では、先ずこの業界のマーケットについて説明している。

研修や講演会、ワークショップや勉強会など、広義のセミナーは1日につき1万件開催されていると言われる中、その内実をしっかりと把握しておく必要がある。それが先に示したマーケティングのステップRSTPBMMに他ならない。

我々は多くの場合、業界というものをステレオタイプにしか見ていないか、もしくは消費者としてしか見ていない。だが実際に、業界を仔細に分析してみると、E・H・シャインによる3つの問い「自分は何がやりたいのか(動機・欲求)」「自分は何をやることに価値を感じるか(意味・価値)」「自分にできることは何か(能力・才能)」、これらの中心にあるキャリア形成の基盤が見えてくることがある。

写真=iStock.com/champpixs
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