元気がありすぎると長生きできない

ほかにも細胞の「工場」でエネルギーをつくるミトコンドリアの機能を抑えると長寿化するとの指摘もあります。

これらが長寿化の代表的な事例です。

専門家は寿命延長経路と呼んでいます。全く覚える必要はありませんが、興味深いのは、全てに共通するのは、どれもが必要な機能だけれども、機能は抑えた方がいいという結論です。元気がありすぎると長生きできないわけです。省エネで低空飛行が長生きの秘訣ひけつなのかもしれません。ただ、これらはいずれも「なぜか」ははっきりしていません。

例えば、生殖細胞の除去によって長寿化するのは、体の持つエネルギーは限られているから、生殖機能を維持するか、その他の機能を維持するかのどちらかに使われるからではないかと思う人もいるかもしれませんが、そんな単純な話ではなさそうです。

そして、ここで挙げた5つの経路は互いに関係性もありません。カロリー摂取の抑制と生殖細胞の除去には関係性はなく、連動して起きているわけでもありません。

ただ、寿命を決定する理由がばらばらでも、一部の研究者は共通点があるのではないかと考えそれを探しました。それがオートファジーの活動でした。

例えば、カロリー制限によってオートファジーが活性化します。飢餓になった場合に栄養を補給するために細胞内を分解するのがオートファジーの第1の役割なので、それと同じ仕組みでオートファジーが活性化するのかもしれません。

写真=iStock.com/Akacin Phonsawat
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線虫を使って実験してみたら…

詳細は省きますが、インスリンシグナルもTORシグナルも抑制されるとオートファジーが活性化しますし、生殖細胞の除去やミトコンドリアの機能抑制も同様です。ですから、「オートファジーが寿命を延ばすには重要かも」と考えられるわけです。これは、実際に実験結果があります。

実験には線虫が使われました。あまり馴染みがないかもしれませんが、ギョウ虫の親戚しんせきです。線虫は寿命が一カ月程度なので寿命の実験によく使います。寿命が縮んだ、延びたがわかりやすいからです。

実験で線虫にカロリー制限をしたら寿命は延びたのですが、カロリー制限してもオートファジーが機能しないように遺伝子を操作したら、寿命が延びなくなりました。これにより、寿命の延長にオートファジーが必要だとわかりました。この際、オートファジーを活性化させる成分としてはウロリチンが報告されています。ウロリチンはザクロやベリーなどに含まれます。

もうひとつ、わかっていることがあります。線虫やハエやマウス、そしてヒトでも、加齢とともにオートファジーの機能は低下するということが示されました。