「カロリー制限」で寿命を延ばすことができる

少し話がそれましたが、「老いを避ける」と聞くと突拍子もないことを言い出したと思われかねないので、生物学的には決しておかしくない背景を説明しました。死は避けられないにしても、人間もアホウドリやハダカデバネズミのように死ぬ直前まで若く元気なままであるように、生命科学の力でできないかと私は真剣に考えています。そして、そのカギを握るのがオートファジーなのです。

結論からいいますと、オートファジーが活性化すると老化を防げる可能性が高まります。みなさんの多くはおそらくヨボヨボになりたくないはずです。ヨボヨボにならないためにはオートファジーを活性化させればよいわけです。

まず、驚かれるかもしれませんが、どうしたら生き物の寿命が延びるかは、わかってきています。ここでは大きく5つ紹介します。最も有名なのが、カロリー制限です。

言葉から想像できるように、カロリー制限は一食ずつの摂取カロリーを減らしたり、食べすぎた時はお腹がいてから食べるといった「プチ断食」です。食事を全くとらないと当然飢え死にしますので、通常の食事量より減らして活動できる程度のカロリーに下げます。そうすると、寿命が延びます。マウスやサルですでに実験されています。

なぜ中国の宦官は20年も長生きだったのか

少し専門的になりますが、他にはインスリンシグナルの抑制があります。インスリンは情報伝達に欠かせないホルモンのひとつです。これをあえてあまり働かないようにすると寿命が延びます。

TORシグナルも抑えた方が寿命は長くなるといわれています。これも専門的ですが、TORとはラパマイシン標的たんぱく質と呼ばれるたんぱく質で、細胞の成長や代謝を制御しています。これはないと困りますが、やや抑制した方が寿命にはプラスです。

興味深いのは生殖細胞の除去です。生殖と寿命は非常に深い関係にあります。子どもを産むと、死ぬ生き物は少なくありません。「もう役割は終わったから死んでいいよ」とばかりに死んでしまいます。

だからなのか、生殖細胞を取り除いてしまうと長生きします。子どもをつくれないから、なかなか死ななくなります。これはいろいろな動物実験で証明されています。そして、この生殖細胞の除去は人間でも例があります。宦官かんがんです。

中国や朝鮮の宮廷に仕えた宦官は生殖機能を後天的にとりのぞいてしまいます。彼らは、40代後半から50代前半で亡くなる男性が多かった頃に平均して70歳まで生きたとの記録もあります。生殖機能の喪失が長寿化の一因となっている可能性があるわけです。