訓練場には、コンクリート造りのビル街が再現されている。ビル一つひとつは窓ガラスのない簡素なものだが、広い敷地内に模擬的な通りや区画が設けられ、4階建てほどのビルが密集して立ち並ぶ。看板などの装飾が省かれている以外は、本物の街さながらだ。

演習場には模擬戦用に、住宅、モスク、学校などが立ち並ぶ。ハマスはガザ地区に広大なトンネル網を整備しているが、イスラエル軍はそれを模した模擬トンネルも用意し、戦闘訓練に用いていたという。

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トンネルに潜り「石器時代」に戻る…情報漏洩を防いだ原始的手法

ハマスは奇襲の計画を進めるうえで、情報管理を徹底した。イスラエル当局による高度な監視を掻い潜るため、電話やコンピューターの使用を避け、監視の届かない特別な部屋や地下で活動を行ったようだ。イスラエルの退役将校であるアミール・アヴィヴィ氏は、英テレグラフ紙に対し、ハマスは計画が発覚するのを防ぐため「石器時代に戻った」のだと形容している。

計画は極秘中の極秘だった。ハマスは過去数カ月間にわたり、イスラエルとの戦闘や対立を行う意志がないとの印象を与えつつ、大規模な作戦の準備を水面下で進めていた。ハマスに近い情報筋は同紙に対し、ハマスが過去に採用したなかでも「前例のない情報戦術」であったと明かしている。リーダー格でさえ大部分は襲撃計画を知らず、また、攻撃初日に投入された約1000人の戦闘員も、事前訓練の具体的な目的を知らされていなかったという。

ハマスが情報漏れの防止に利用した「監視の届かない特別な部屋や地下」は、ガザ地区に設けられた巨大なトンネル網を指すようだ。米タイム誌が詳説している。

通常であれば、イスラエル国防軍(IDF)の軍事情報総局(通称・アマン)が、対パレスチナの諜報ちょうほう活動を行っている。先端テクノロジーを大量に導入するほか、パレスチナで話されるアラビア語の話者を多く雇用し、高度な情報収集を行う。

探知不能な広範な地下トンネル

しかしタイム誌は、ハマス側が地下に潜って活動を準備したことで、イスラエルの情報網にかかりづらい状態であったと分析している。「一部は深さ230フィート(約70m)にも達する、数百キロに及ぶ広範な地下トンネル」を通じて連携を取り、テクノロジーを用いず人間対人間のコミュニケーションを徹底することで、イスラエル側の技術で探知可能な痕跡を通信網上に残さなかった。

トンネル網に関してはもう一つ、カタールの衛星放送局・アルジャジーラが、ハマスの戦闘に有利に働くとの観測を示している。ガザ地区は陸・空・海を封鎖されたが、空爆3日目となっても依然として「迷路のように張り巡らされたトンネルが生命線となって」おり、「食料や武器から燃料まで、あらゆるものが運び込まれている」と同局は報じる。