戦闘員を送り込み、短時間で制圧

ガーディアン紙は、侵攻がわずかの間に機敏に行われたと強調する。奇襲は2500発のロケット弾で幕を開けたあと、ハマスはボートやパラグライダーを通じてガザ北部への侵入を試み、無人偵察機さえ導入した。この計画は、「この攻撃が混乱と圧倒を意図したものであることを示唆している」と同紙は分析する。

イスラエル側の尋問を受けたあるハマス戦闘員は、「われわれは1000人の戦闘員を用意し、15カ所でフェンスを突破した」と語った。ガーディアン紙によると、2重のバリケードで隔てられた国境チェックポイントすら、ごく短時間で制圧されたようだ。対戦車誘導ミサイルとみられる爆発に続き、イスラエル軍がガザ侵攻時に使用するアクセスゲートがハマスの支配下に置かれた。

攻撃はイスラエル軍の通信網を遮断するよう整然と進められた。ついに国境のフェンスが崩壊すると、「バイクで、車で、徒歩で……武装した400人のハマスの第一波が、国境を越えてイスラエルになだれ込んだ」と記事は報じている。

周到な準備、「平和を装う」情報戦

あっという間にイスラエル側を圧倒した作戦は、周到な準備に基づくものだった。ロイターは「最も目覚ましい事前準備の要素のひとつ」として、摸擬市街地の建設を挙げている。

情報筋によるとハマスはガザに、模擬的なイスラエル入植地を建設していたという。そこで軍事侵攻の演習を重ね、演習の様子を収めた記録映像まで製作していた。

イスラエル側は演習地の存在こそ把握していたものの、実際に侵攻に及ぶとは考えていなかった模様だ。情報筋はロイターに対し、「イスラエルは確かに見ていたが、ハマスが対立を望んでいないと信じ込んでいた」「ハマスはイスラエルに対し、軍事的な賭けに出る用意はないとの印象を植え付けることに成功していた」と明かしている。

ロイターはまた、ハマスの戦闘員は2021年の紛争以来、ガザで訓練を行っており、「時として丸見えの状態で訓練を行っていた」と報じている。イスラエル入植地を模して建設した施設において、攻め込み、襲撃する演習を行っていたという。

ハマスは訓練に参加した兵士に対し、情報漏洩の予防策を敷いていた。ガーディアン紙は、イスラエルを模した摸擬集落で家から家へと渡り歩く訓練が実施されていたものの、兵士らは訓練の目的を最後まで知らされていなかったと報じている。

レプリカの街で繰り返された軍事演習

摸擬集落は、イスラエル軍も同様の設備を保有している。イスラエルのメディア「オール・イスラエル・ニュース」は、軍敷地内にガザの街を模した訓練場を建設していたと報じている。市街戦の訓練用として、パレスチナ側のガザ地区の街のレプリカを建設。今年8月には海外から集まった報道陣に対して公開している。

イスラエルの迎撃システム「アイアンドーム」(写真=IDF Spokesperson's Unit photographer/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons
「アイアンドーム」システムがロケット弾を迎撃(写真=Israel Defense Forces/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons