「店は客のためにあり 店員とともに栄える」

倉本は、これまでの金儲け一辺倒の商人のあり方を悔い改め、お客様のための商売に生きようという信念に燃えた多くの商人たちの育成に尽力。また、いち早くアメリカの先進的な経営技法の導入を積極的に提唱し、来たるチェーンストア、ショッピングセンター時代に先鞭せんべんをつけた。

笹井清範『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる 倉本長治の商人学』(プレジデント社)

こうした活動を通じて、倉本は日本の商業近代化に貢献し、多くの優れた経営者を全国各地に輩出した。そんな彼らから師として敬われ、「日本商業の父」「昭和の石田梅岩」と呼ばれている。

じつは、倉本の教えには続きがある。

柳井がそれを知ったのは1994年、広島証券取引所に上場して間もない頃、かつての勤務先であるイオンの岡田卓也さんと『商業界』誌上で対談したときのことだ。そのとき、「店は客のためにある」は「店員とともに栄える」と続き、「店主とともに滅びる」と締めくくられることを知ることとなった。

「これら一連の言葉は、企業の在り方そのものを示しています。企業にとっていちばん大切な永続性の本質を、私はここに見たのでした。これまでに、この言葉に何回も励まされ、ああ、こういうことだったのかと気づかされたりしてきました」と柳井は言う。

以来、彼の執務室の壁には「店は客のためにあり 店員とともに栄える」という言葉を掲げ続けられている。

撮影=大沢尚芳
執務室には倉本長治の言葉「店は客のためにあり 店員とともに栄える」が掲げられている。
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