歪な家族

母親は小栗さんが初潮を迎えると、「縁起が悪いから、兄ちゃんの近くに行ったら許さないよ!」と邪険にし、体つきが女性らしくなってくると、「あんた気持ちが悪いね。水商売でもするのかね」と言い放ち、なかなか女性用の下着を買ってくれなかった。父親は、小栗さんが祖母や母親にひどいことを言われていても、助け舟を出したことは一度もなかったが、さすがにこのときは放っておけなかったのだろう。父親が下着売り場に連れて行ってくれて、女性用の下着を買ってもらうことができた。

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一方、兄は成績も運動神経も良く、母親の自慢の息子だった。しかしそんな兄に対して、父親は当てつけのように暴力を振るった。兄の友達が遊びに来ているときでもお構いなしに、機嫌を損ねると兄に直接手を出すだけでなく、友達と遊んでいたトランプを取り上げて、くみ取り式便所に投げ捨てたりした。

母親は兄には成績のことは言わなかったが、小栗さんには執拗しつように口を挟んだ。兄は中学卒業後、私立の名門男子校に入学し、そこで成績は上位2割には入っていたが、小栗さんは公立の高校に進学し、上位1割に入っていた。それなのに、テストで100点でないときや、クラスで1番でないときには、「私の同級生の子どもに負けるなんて悔しい! 恥ずかしい!」「私は誰にも負けなかったのに、お前はバカだ!」と金切り声をあげながらヒステリックになじり、答案用紙を破かれた。

兄は、父親が自分にだけつらく当たり、妹の小栗さんにはそうではない理不尽さに耐えきれなくなったのだろうか。それとも、母親に虐げられながらも、トップクラスの成績を維持する妹を脅威に感じたのだろうか。高校生くらいの頃から、「お前は役立たずだ」「社会に出ても使えない」「他の女子の引き立て役だ」などと言ってくるようになった。

小栗さんが大学受験を迎えると、母親は毎日のように、勉強する小栗さんの横で、「おまえは落ちる。兄ちゃんとは違う。お前はバカだ」と繰り返した。

「高3の秋の三者面談の帰り道で気分が悪くなり、フラフラになりながらも何とか病院に駆け込んだら、『精神的なもの』と診断されました。入試当日の朝も母がべったり張り付いてきたため、吐き気で動けなくなり、病院で点滴を打ってから這うようにして受験しました」

結果、学部は違うものの、兄と同じ大学に合格した。