コロンビア大学ハリマン研究所のアントン・シリコフによれば、政府のプロパガンダ機関は22年9月、プーチンの「部分的」動員令は軍隊経験のあるごく一部のロシア人に影響するだけだとして国民を説得しようとしたが、この試みは失敗に終わった。大量の男性が徴兵を逃れようと近隣諸国に脱出したのだ。
シリコフは、22年9月のドネツク、ルハンスク(ルガンスク)、ヘルソン、ザポリッジャの4州併合をロシア国民は信じていないとも指摘する。「これらの併合・占領された地域はロシア領だと政府は主張してきたが、大半のロシア人はそれを完全には受け入れていないと思う。当局のプロパガンダはこれらの地域が今や『拡大ロシア』だと国民に信じ込ませることにあまり成功していないようだ」
国民の実感と大きく乖離
この現状はプーチンにとって長期的な問題になり得る。モスクワに拠点を置く超党派の民間調査機関ロシアン・フィールドが行った世論調査によると、「特別軍事作戦」の続行に賛成する意見はわずか45%で、22年4月の前回調査から9ポイント低下した。
一方、ロシアは和平交渉に臨むべきだという回答は44%で前回より9ポイント上昇した。「紛争が拡大し、第2波の動員を伴う場合」という条件を付けると和平交渉派は54%に増えた。
結局のところ、ロシア政府の戦略に一貫性がないため、プロパガンダ機関の担当者はその場その場で即興的に対応せざるを得ないと、ドーシチのジャドコは指摘する。
「ロシア政府が成功していない以上、プロパガンダも成功していない。1日に2~3時間番組を放送していれば、当然誰かが『真実』を口にする。彼らの大半は実情を理解している。彼らとしても、『ロシアは強く、西側は弱い』『ウクライナは弱体化している』などとばかげたことを言い続けるわけにはいかないのだ」
最高レベルのプロパガンダといえども「魔法ではない」と、ランド研究所のポールは指摘する。
「国家が『正しいこと』を語り、正しいメッセージと広報活動でそれを支援するだけでは、外交政策の目標達成は不可能だ。公式発表と国民が実感する現実との間に、ある程度の関連が存在する必要がある」