自立を支援する活動をライフワークに
極悪非道だった自分がやり直すことができたのは、見捨てずにいてくれる仲間がいたからだと廣瀬は思っている。だったら自分もそうしよう。誰も見捨てず、寄り添おう。
全国の少年院や刑務所から入社希望の思いが綴られた履歴書が届くと、廣瀬は1週間程度の面会ツアーを組んで足を運び、直接会う。雇い入れが決まれば、出所日には迎えにも行く。はたから見れば身を削るような毎日だが、ストレスは少ない。なぜなら、やりたくてしていることだからだ。
「社員たちが働いてくれて、会社もそれなりに成長できました。これまで雇い入れた出所者は約80人。少しは更生の役にも立てるようになったかな。でも、私には新しい夢ができたの」
取材も終わりに近づいた頃、これまで夢など語ったことのない廣瀬が言い出した。それは何か。会社とは別に、自立支援ホームを作ることだという。出所者が一定期間過ごし、仕事探しなどをするための施設だ。
「うちは建設関連で現場仕事なので、誰でも雇えるわけじゃない。でも、高齢者や障害を持っている出所者など、本当に困っている人っているんだよね。その人たちのサポートをライフワークにしたいんです」
そのうちに、の話かと思ったのだが、僕は廣瀬の行動力を見くびっていたようだ。しばらくすると電話がかかってきたのである。
「近くに出物があったので、ビジネスホテルを買いました。自立支援ホームはハードルの高い事業なので、前科者の私でも認可が下りる事業を見つけて必ずやりたい」
過去は変えられなくても、未来なら変えられる、はず。でも現実には一度でもしくじった者を徹底して叩く、失敗を許さない風潮がはびこっている。みんなの気持ちに余裕がなくなれば、ますます失敗を恐れる気持ちが強くなり、冒険心やチャレンジ心にブレーキをかけてしまいそうだ。
廣瀬の半生を書いた拙著『人生上等! 未来なら変えられる』(集英社インターナショナル)が今冬に出てネットニュースになったときも、コメント欄には辛辣な意見があふれた。元犯罪者に何ができる、引っ込んでろ、ロクなもんじゃない……。それを伝えると、彼女は「あはは」と笑った。
「叩かれるのは慣れてるんで気にしません。“協力雇用主”に関心を抱いたり、再犯者率について考えてくれたりする人が少しでも増えたらいいんです。私は、圧倒的にサポートが足りない現状を世の中に理解してもらう足掛かりになりたい。そのためにできることは何でもするつもりです」
目標はあくまでそこなのだ。やることを決めたら、迷うことなくまっすぐに進む。何をしでかすか予想がつかない廣瀬の元へ通う日々は、当分続きそうだ。