二度服役し獄中出産した元レディス総長の社長の生き様
2007年に発刊された『裁判官の爆笑お言葉集』(長嶺超輝 幻冬舎新書)が再び脚光を浴びている。裁判官が法廷で被告人に語りかけた発言を集めたものだが、そのひとつにこんなものがある。
「私があなたに判決するのは3回目です」
覚せい剤常習者への、うんざりした気持ちが込められているようで笑ってしまうが、裁判官が自嘲気味に言った言葉でもあると思う。裁判の目的は、悪いことをした人に罰を与えるだけでなく、再び悪事に手を染めないよう反省し、立ち直ってもらうことなのに、過去の裁判で裁判官がかけた言葉は効き目がなかった。その無力感が、この発言を味のあるものにしている。
法務省の「再犯防止推進白書」令和4年度版によると、2021年の刑法犯検挙人員者は約17万5000人で、そのうち、再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者)は約8万5000人。再犯者率は48.6%となっている。
こうした再犯者が更生を誓って少年院や刑務所から出所しても、住む家や仕事、お金、サポートしてくれる人など、人生をやり直すために必要なものがなかったらどうすればいいのか。ただでさえ、世間の見る目は厳しいというのに。
住む場所や生活費を得るためにまず欲しいのは仕事だろう。仕事を得て生活が安定すれば、小銭稼ぎの犯罪に手を染めたり、ヤケになって悪事に走ったりするケースを減らすことができる。そこで期待されるのが、社会復帰に協力することを目的として雇用を行う“協力雇用主”だ。
長年、裁判傍聴をしてきた僕は、実刑判決を受け、うなだれて法廷を去っていく被告人を見ているうちに、彼らの出所後が気になってきた。“協力雇用主”に話を聞けば、実態の一部がわかるのではないだろうか。元犯罪者を積極的に雇い入れようとする企業のトップは、社会のために尽くしたいという崇高な理念を持っているに違いない。そう考え、つてを頼って会いに行ったのが、栃木県にある大伸ワークサポート代表取締役の廣瀬伸恵だった。
ところが、会うなり彼女は、崇高な理想を掲げるだけでは、“協力雇用主”はできないと言い切った。そんなキレイごとじゃないと。
出所者の過去は十人十色。犯罪歴も詐欺や窃盗から覚せい剤、暴力がらみなど幅広い。本気で更生を誓っても、きっかけひとつで崩れることも多い。社内でのいざこざ、脱走、警察沙汰も頻発する。彼らを束ねて仕事を回していくには、雇用する側もタフでなければ務まらないのだ。
「私もさんざん悪いことをして、刑務所に二度服役しましたし、獄中出産も経験しています。私自身が再犯者。まっとうに生きようと思っても、悪評が知れ渡っている地元では仕事を得ることさえ難しかった人間なんです」
建設業に活路を見出し、やがて起業しても、ハローワークは誰も紹介してくれなかったそうだ。
「だから、最初は苦し紛れに少年院や刑務所にいる知人が出所したら雇うことを始めたんです。でも、“協力雇用主”の制度を知って思ったの。これって、出所者の悩みや苦しみがわかる自分にぴったりの役割じゃないかって」
予想外の答えを聞いた僕は、その場で廣瀬に「あなたの本を書きたい」と申し込んだ。彼女の半生は出所者のリアルなレポートであり、再犯者率を下げるためにどうしたらいいかを考えるきっかけにもなると考えたからだ。