なお、復興庁は、「トリチウムが生物内で濃縮されることはありません」「トリチウムは、大部分が水の状態で存在し、水と同じように体外へ排出され、体内で蓄積・濃縮されないことが確認されています」と説明している。

チェルノブイリや福島第一原発事故の環境への影響を研究する米ポーツマス大学のジム・スミス教授(環境科学)は、タイム誌の取材に対し、処理水放出後もなお、日本産の魚介類を食べたり養殖したりしても安全だろうとの見解を示している。

分子病理学の専門家であり、IAEAのアドバイザーでもあるジェリー・トーマス氏は、BBCに対し、科学的根拠を超えた恐怖心が蔓延していると語る。「本当の問題は、放射線による物理的な影響ではありません。私たちの恐怖心なのです」

CNNは、処理水は最も弱いトリチウムを除き、ほとんどの放射性同位体が除去されていると指摘。中国政府は食品の安全確保のための禁輸としている一方、一部専門家のあいだでは、領土問題などに起因する日本への敵意のあらわれだとの見方があると報じている。

中国にも冷静に受け止める人々がいる

福島第一原発事故の処理水問題は、日本国内でも大きな関心事となっている。ましてや事情が詳細にわからない海外から不安の声が上がるのは、心情的に理解できないでもない。

ただし、前掲の科学的な事実を踏まえると、水産物の禁輸措置や中国本土からの抗議電話は極めて感情的な反応であると言わざるを得ない。こと、国営メディアが報道を統制している中国では、放出への憎しみが倍増しているようだ。

BBCが「報復」と指摘したように、政治的アドバンテージを高めるために中国政府が事態を大事にしている可能性すら想定される。もっとも専門家は同記事に対し、禁輸は中国国内の業者自体を困窮させるため、禁輸は比較的短期間で解除されるとの見方を示している。

香港で引き続き賑わう寿司店や日本食レストランが象徴するように、周辺諸国にも比較的冷静に事態を受け止めている人々は存在する。科学的知見を無視し、放出が政治的に悪用されないことを願いたい。

写真=iStock.com/Urbanscape
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