旧統一教会について話したこと

安倍さんとの電話は、たいてい夜でした。夕方以降は情報収集タイムと決めていたようで、毎晩のように誰かと会食し、帰宅してから政治家や記者などあちこちに電話する。夜は、情報収集をして世間で何が起きているのかを必死で探ろうとしている感じでした。

撮影=門間新弥

私に電話をかけてくるのはいつも午後10時から午前0時ぐらいの間でした。短いときは10分程度、長ければ1時間前後になることもありました。

初めは政治や外交の話題でも、どんどん脱線して最後は雑談というパターンもありました。日曜の晩にかけてきたから重要な話かと思ったら、大河ドラマの感想や俳優の演技に対する「突っ込み」だったことも……。

また安倍さんも私も無呼吸症候群を患っていましたので、CPAP(治療用具)の操作の仕方を問い合わせてきたり、私の体の調子を尋ねてくることもありました。

安倍さんが凶弾に倒れる前日は二度かかってきました。一度目の電話で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の話題が出ました。第1次安倍内閣で秘書官を務めた井上義行さんが、旧統一教会の“祝福”を受けたと聞いたので、安倍さんに確認したのです。皮肉なことに、旧統一教会について話すのは初めてのことでした。

嫌な予感がして私はつい語気を強めてどういうことなのかと問うたのですが、安倍さんは声のトーンを下げて「特に問題はないので。大丈夫だから。明日は朝早いから」と電話を切ってしまいました。でも後味が悪かったのでしょう、1時間ほどするとまた電話をかけてきました。今度はいつもの明るい調子で、「予定が急遽変更になり、奈良に応援にはいることになっちゃった」などと話し、電話は切れました。「また明日」という言葉だけが残り、まさか、これが最後の会話になるとは想像すらしていませんでした。

事件の第一報が入った瞬間、私はとっさに安倍さんの携帯電話を鳴らしましたが、つながりませんでした。コールバックを祈りながらスマホを握りしめている時間が、重く、悲しく、とてつもなく長く感じました。