母親の受診と父親の認知症

さすがに「病院で診てもらった方がいい」ということになり、母親は父親の運転で近所の消化器内科を受診。検査を受けると、「尿路結石」と診断された。その夜、母親はあまりの痛みに眠れず、翌朝も同じ病院を再受診。すると、「念のため大きな病院へ」となり、紹介状を手に帰宅した。

翌朝8時、母親はやはり父親の運転で大学病院へ向かう。父親は「検査に時間がかかるから、一度帰っていて」と母親に言われ、家に帰ってきた。だが、玄関やリビングを行ったり来たりして落ち着かない。「迎えに行ってくる」と突然言い出すので、春日さんは娘の世話をしながら、「連絡来るまで家で待っててって言われてるでしょ」と嗜める。

「いや、病院の玄関で待ってるから」と言う父親に、「夕方までかかるってば!」と止めるが、「家で待ってても、病院で待ってても一緒だろ!」と言って行ってしまう。結局父親は、母親が帰宅するまでに、車で15分の距離を、4往復した。

母親は17時に帰宅。検査結果はまだ出ないが、大学病院の医師は、「結石はない」と言う。春日さんは、最初に受診した消化器内科を疑った。

その翌朝、春日さんは両親のもめる声で起こされる。両親のリビングがある2階へ行くと、母親が泣いていた。なんでも、朝6時に起きた父親が、日課である洗い物を始め、庭いじりをしたあと、痛みで眠れず、布団の中でうずくまる母親の耳元で、何度も何度も何度も「朝ごはんどうする?」と聞いてきた。

母親は鎮痛剤を飲むために、何かお腹に入れたほうが良いと考え、近所のおにぎり屋の名前と、買ってきてほしいものをメモして父親に渡したが、父親が買ってきたのはサンドイッチとポテトサラダ。いずれも父親の大好物だった。

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「この頃の父は、買い物はできますが、○○というお店で××を買ってきて、という頼まれごとはできなくなっていました。口頭で伝えても、玄関を出るまでに忘れ、メモを書いても、ポケットにしまった後、メモの存在を忘れてしまいました」

母親は痛みに耐えられず、早く鎮痛剤を飲みたくて近くのおにぎり屋を指定したのに、倍以上の時間をかけて買って来られたのは父親自身の好物であったことに、悲しさと怒りとやるせなさが溢れたのだった。

その後母親は、2泊3日の血液検査入院が決まった。その間も父親は、「病院へ行ってくる」と言い、春日さんが「コロナだから面会できないよ!」と止めても、「わからないじゃないか!」と言って聞かない。結局病院の受付で断られて帰ってくる……を、1日あたり5回も繰り返した。

「父は優しく穏やかで、私の前では声を荒らげたりすることはなく、夫婦げんかも見たことがありませんでした。認知症という病気が、不安を大きくし、怒りっぽくさせるのだと思います……」

母親が体調を崩した今、春日さんは、生まれたばかりの娘の世話だけでも精いっぱいなのに、認知症の父親の相手まで手が回らない。夫婦で話し合い、夫が会社に相談したところ、特別にテレワーク勤務を認められ、家族の食事作りや夕方以降の父親の相手を担当してくれることになった。