期待する喜び

何週間、何カ月も前から、どこに行こうか、何を見ようか、などと考えて、計画を立てて旅行に出かけたことはありますか? もし、そういう経験があるのであれば、それは素晴らしい方法です。期待することで、一つの出来事からより多くの幸せを搾り取ることができます。子どもたちがクリスマスの朝を待ちわびるのは、何日も何週間も前から素敵なプレゼントを開ける喜びを予感して、その日を味わうためでもあるのです。(ドイツ語には「後のお楽しみが一番の喜び」ということを意味する「VorfreudeistdieschönsteFreude」という表現があるほどです)。

作家A・A・ミルンの「くまのプーさん」の中には、期待することの喜びを的確に表現した名言があります(訳注:A・A・ミルン(著)石井桃子(訳)(1940)クマのプーさん、岩波書店、岩波少年文庫より引用)

「そう…」と、プーはいいました。「ぼくはいちばん─」と、ここまでいってから、プーはかんがえこまなくてはなりませんでした。なぜかというと、はちみつを食べることは、ずいぶんといいことではありましたが、たべるよりちょっとまえに、ほんとうにたべているときより、もっとたのしいときがあります。でも、プーは、それをなんと呼んでいいのかわかりません。

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もちろん、この言葉とは「期待すること」です。

ただし、私の言葉をそのまま鵜呑みにする必要はありません。科学的な研究によると、何か経験を期待する人は、そうではない人と比べて、より大きな楽しみを得ていることが証明されています。例えば、ある研究は、大学生にチョコレート評価に参加することを求めました21※。研究参加者の半数は、ハーシーのキス・チョコレート、あるいはハグ・チョコレートをすぐに食べて、そのチョコレートを食べる楽しさを評価しました。もう半数の研究参加者は、30分間待ってから、チョコレートを食べて、同様の評価を行いました。研究結果を予測できるでしょうか?

30分間待たされた学生は、すぐに食べることができた学生と比べて、そのチョコレートのことをずっと好きだ、と回答したのです。このように、私たちが体験にお金を使うことで、もっと多くの幸せを得ることができる理由の一つは、新たな有形財を得ることを期待するのと比べて、体験することを期待したときの方がはるかに楽しいからです22※。

待ちに待ったヨーロッパでのバカンス、何を見て、何を食べようか、そんな楽しみを頭に思い描いてみてください。それでは次に、車や大型テレビ、新しいコンピューターなど、有形財がもうすぐ手に入る、と期待することで得られる喜びについて思いを巡らしてみてください。多くの人にとっては「早く新しい財布を持ちたい!」というモノの到着への期待は、「早くマチュピチュが見たい!」という旅に対する期待と比べて、はるかに小さな幸福感しか生まないことがわかります。

この研究結果を知ってから、私たち夫婦は子どもたちへのクリスマス・プレゼントの内容を抜本的に改めることにしました。高価な品物を購入する代わりに、何らかの体験にお金を支払うようにしたのです。ある年は「ハミルトン」(訳注:大人気ミュージカル)のチケット、別の年は「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」(訳注:人気ダンス番組をモチーフにしたエンタテインメント・ショー)ツアーのチケットをプレゼントすることにしました(ただし、このチケットは11歳の少女には相応しい選択ではなかった、と思います)。息子たちへのプレゼントは、ボストン・セルティックスやボストン・ブルーインズの観戦チケットなど、いつもスポーツにまつわる体験を中心にしています。

このように、大切な人のために何か買い物をするときは物品を購入するのではなく、スパ(訳注:温泉などを備えた健康増進施設)の一日券やコンサートのチケット、お気に入りのレストランのギフト券など、体験できることにお金を支出することを検討してみてください。