ポリプロピレンの発明

ポリエチレンと並んで、大量に生産されているのがポリプロピレンです。ポリプロピレンは、オフィスや学校で書類収納に使われたり、美術館やアニメのイベントで売られたりするクリアファイルから、自動車のバンパーまで、さまざまなところで使われています。

原料のプロペンは、重合させても糊のようなべとついた変なものにしかならず、ポリプロピレンは実用化できませんでした。

チーグラー触媒が発明されたという情報を、チーグラーと契約していたイタリアの巨大化学企業、モンテカチーニから入手したミラノ工科大学のジュリオ・ナッタ教授は、チーグラー触媒を改良して実験を重ねます。そして、三塩化チタン(TiCl3)とトリエチルアルミニウムの触媒を用いて、1954年3月にポリプロピレンの重合に成功しました。

ポリエチレンと違ってポリプロピレンは、多数のメチル基(-CH3)がメインの炭素原子の鎖から突き出していますが、この向きがバラバラ(アタクチック)だと糊のようになってしまうのです。ナッタが発明した触媒は、このメチル基(-CH3)の向きをそろえたものになり(アイソタクチックポリプロピレン)、分子どうしが結晶化しやすいので優れたプラスチックになるのです。

写真=iStock.com/patpitchaya
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ノーベル化学賞を共同受賞

モンテカチーニは、ナッタの触媒を用いたポリプロピレン生産の特許を取得して実用化しました。世界中の石油化学の企業の関係者がポリプロピレン生産を自社にも導入しようと、イタリアまで通う“モンテ参り”がはやりました。

大宮理『ケミストリー現代史 その時、化学が世界を一変させた!』(PHP文庫)

チーグラーとナッタの二人は、プラスチック時代を生み出す触媒の発明で1963年のノーベル化学賞を共同受賞します。だが、チーグラーの発明した触媒は四塩化チタン、ナッタの発明した触媒は三塩化チタンと、パンケーキとホットケーキの違いくらいの感じですから、チーグラーは、ナッタの発明は自分の研究の剽窃ひょうせつであると批判を続け、二人は犬猿の仲になりました。

金属原子と炭素原子が直接結合した構造を持つものを有機金属化合物といいますが、チーグラー触媒の発見でこの分野が大きく開花します。

1980年にはドイツのウォルター・カミンスキーがチーグラー触媒を超える高性能の重合用触媒「カミンスキー触媒」を発見しました。

現代の化学工業では、化学反応を驚異的に加速する触媒の技術が大きく貢献していますが、それらの触媒の多くが遷移元素の金属の有機金属化合物です。触媒こそ、起こりにくい反応を驚異的に加速して反応させる、まさに現代文明を支える魔法なのです。

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