夏の海外渡航は「業界の常識」

所属政党だけではなく、行き先も多岐にわたっている。「南部アジア各国における政治経済事情等調査」では「インド・ブータン・ミャンマー」、「欧州各国における財政金融経済事情等調査」では「ポルトガル・スペイン」、「欧州各国における教育、文化芸術及びスポーツ振興に関する調査」は「イタリア・バチカン・ポルトガル・英国」、「イタリア共和国等における議会制度及び政治経済事情調査」は当然「イタリア・バチカン」といった具合だ。期間は概ね1週間から10日となっている。

衆議院の公式派遣だけで、70人近いのだ。参議院、さらに政党や議連などでの派遣まで含めれば、その数は大幅に増える。つまり「夏の海外渡航」は国会議員のあいだでは「みんながやっていること」であり、いわば「常識」なのだ。

写真=時事通信フォト/松川氏のSNS
自民党の松川るい女性局長のフランスへの海外研修に関する投稿[松川氏のSNSより]

海外で羽を伸ばす国会議員とは対照的に、一般的な有権者の置かれた状況は厳しい。厚生労働省が先月発表した5月の実質賃金は前年同月比で1.2%減っている。マイナスとなるのは14カ月連続という惨状だ。

国会議員にとって海外渡航は「常識」でも、一般の有権者の眼には「自分たちの納めた税金で遊んでいるのか」と映ってしまう。「業界の常識」に浸るあまり、一般有権者の眼にどう映るか、想像が至らなかったのではないか。

「不人気総理」の登場に大歓声が上がる理由

落とし穴、その2:自分には人気があると勘違いしてしまう

私は記者として、最も長い時間を費やしたのは企業取材だが、スタートは政治部だった。テレビの政治部記者は、まず総理大臣を担当する「総理番」となるのが定番だ。

「国の最高権力者をなぜ駆け出し記者が取材するのか」と思われるかもしれない。だが、総理大臣の動静を追うのは、実は最も簡単な取材なのだ。なにしろ総理大臣といえば公人中の公人。「隠密行動」が取りにくいので、経験の浅い新人記者でも十分に対応可能なのだ。

私が総理番として担当することになったのが、当時の森喜朗総理だった。口の悪い週刊誌からは「サメの脳みそ・ノミの心臓」などと揶揄され、内閣支持率も8%まで低迷。まさに「歴代屈指の不人気総理」だった。

そんな不人気極まりない森総理の地方視察に同行取材したときのことだった。「きゃーっ、森さーん‼」。大勢の女子高生たちが、大声で森総理に呼びかけているのだ。まるで「国民的アイドルが町にやって来た」ような大騒ぎだ。森総理もまんざらでもないようで、笑顔で呼びかけに応じていた。