「働きやすいはず」という思い込みは危険

言うまでもなく早稲田は日本を代表する難関校であり、それは95年当時ももちろん変わりません。その裏でこのような経営の危機が起きていたことはあまり知られていませんでした。有力大学だからこその慢心、経営という視点の軽視も大きな原因だと著者は指摘しています。当時、關氏のこの書籍は、しばしば大学職員の勉強会などで推薦図書に指定されました。

その後、社会状況も変わり、大学業界でも財政健全化は広く関心を集めるトピックになりました。とはいえ、投資の失敗で巨額の損失を出したり、入学者数を予測しきれず補助金がカットされたりなど、有力校でもしばしば経営に関する問題は起きています。

イラスト=若林杏樹

そもそも18歳人口は減少し続け、今後も増加する見込みはありません。現在20代の方が職員になる場合、その後40年ほど働くことになります。「いま学生が集まっているのだからきっと大丈夫」と考えるのはやや楽観的すぎるでしょう。また、仮に財務体質が健全な大学であったとしても、職員の雇用や待遇維持に熱心であるとは限りません。

順調に志願者を集めている大学でも、職員の離職率が高いところはあります。世間からの評判は良いけれど、オーナー系のワンマン経営で教職員が疲弊しているという例もあります。改革の一環として経営トップや管理職を外部から招くケースも増えていますが、その結果、組織風土が一変して職員たちがメンタルの不調に陥ったり、休職者や離職者が増加したりすることもあります。企業でもしばしば起こるこうした変化が、大学では絶対に起きない、などということはないのです。「きっと働きやすいはず」という思い込みは少々危険です。

組織規模による違いは大きい

組織の規模による違いも極めて大きいです。教職員数や学生数の多い大学は往々にして縦割り組織であり、良くも悪くも大企業的、公務員的な組織体質であるケースが多いように思います。業務が明確に区分されている、人数が多いため一人ひとりの業務負担を分散できるといったメリットは多々ありますが、現場の一人ひとりが危機感を覚えにくい、若手からの提案が通りにくいといった一面もあるでしょう。

一方、教職員数の少ない大学では職員一人ひとりが関われる業務領域が広かったり、熱心な個人に業務負担が集中したりと、こちらにも長所、短所の両面があります。どちらのほうが肌に合うかは、人によるでしょう。仕事のしやすさや自分のキャリアアップなどを考え、大規模校から小規模な短期大学などへ転職する職員の例もしばしば耳にします。