長期金利は軽く「1%上限」に到着する

理論的には国債の名目金利は以下のような方程式になる。

国債の名目金利=実質金利+期待インフレ率+リスクプレミアム(政府の破綻確率)

インフレが加速しつつある現状、世界最大の財政赤字(対GDP比)を背負っている日本で、どういう数字を当てはめれば名目金利が1%に収まるのか。強引に1%に抑えるためには日銀による国債の爆買いに頼るしかない。

それは前述のように、お金の価値を希薄化(=インフレ)させることに他ならない。「物価の安定」という責務を負っている日銀はますます窮地に追いやられる。

ヘッジファンドも長期金利が1%に上昇するまでは再度、長期国債市場で売りを果敢に攻め立ててくるだろう。1992年秋、ジョージ・ソロス氏率いるヘッジファンドが巨額のポンド売りを仕掛け、イングランド銀行(英国中銀)に勝った時と同じ戦術である。

国債のショートポジションは、負けても損害は微少だ。これだけインフレが加速しているときに、長期金利が再度下落するリスクはかなり低い。一方、金利は1%まではほぼ無抵抗で上昇する。しかも日銀が途中で国債買いオペを増強すればインフレが加速し、窮地に陥った日銀が白旗を揚げる可能性もある。

そうなれば長期市中金利は日銀の手を離れ、すさまじい暴騰となる。失敗しても被害は微小、成功すれば尋常でない儲け。この取引に飛び付かないプロがいない方が不思議だ。

日銀が白旗を揚げたら「1%上限」など意味をなさない。買いオペを諦めれば、日本の長期金利はロシア危機(1998年)と同じように急騰すると思う(私の記憶では当時、ロシアの長期金利は80%程度に達した)。大蔵省の資金運用部ショック(1998年)が再来するかもしれない。詳しくは今年4月に書いた記事を参照してほしい。

もちろん、そんな時には日米金利差がどうこうという次元の話ではない。円が紙くず化するのだから円を買う人などいない。ドル円は天文学的に上昇する。

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長期金利が1%で定着すれば何が起こるか

日銀の保有国債は、2022年9月末時点で8749億円の評価損だった。それが12月末には8兆8000億円に膨れ上がった。これは日銀が長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた結果だ。

たった0.25%の上昇で8兆円の評価損が増えた。これを単純計算すると、1%まで長期金利が上昇した場合、日銀は約25兆円の国債評価損を被ることとなる。実際、雨宮正佳・前日銀副総裁は2022年12月の参院予算委員会で、1%の場合、国債評価損はマイナス28兆6000億円になるとの試算を示している

日銀の内部留保が12兆円(6月末時点)であることを考えると巨大な損失だ。内部留保や保有株式の評価益も食いつぶし債務超過となる可能性が高い。金利上昇で株価が下押ししていれば可能性はさらに大きくなる。