快の種類や程度、時間幅をはじめとする膨大な変数で常に変動しているのがモチベーション。最終的に出力されるアクションは「やるorやらない」の二択に帰結してしまいますが、結果に至るまでのプロセスには、複雑な動機要因が入り混じっているのです。
したがって、たとえ表面上は無気力に見える部下も、「モチベーションがゼロ」ということは基本的にありえないと考えるべきです。上司は、部下自身も気付いていない快に目を向けさせたり、部下が抱いている不快を取り除いたりして、快が不快を総量で上回るように導けば、部下が主体的に動き始めるという結果を生むことができるでしょう。
部下が自ら学び、自ら行動するようにサポートする――これはマネジメントの極意です。この、人間が能動的に行動・学習する過程は、学術的に「自己調整学習」と呼ばれます。
人間の能動的な行動や学習は3つのプロセスに分けられます。まず、目標を設定したり、計画を立案したりして、今後の見通しを立てる「予見」。計画を実際に行動に移し、目標を達成すべく試行錯誤を繰り返す「遂行コントロール」。最後に、学習はうまくいったか、うまくいかなかった原因は何か、次からの行動をどう改善していくかを振り返る「自己省察」の3つです。
自己省察での分析に基づいて、次なる目標や計画を立てて……というように、この3つのステップがサイクルを成してスムーズに循環している状態が、理想的な状態です。マネジメントとは、部下の自己調整学習のサイクルを円滑化することだと言えるでしょう。
もし、部下が受け身の姿勢を取っているとしたら、負の学習サイクルに陥っている可能性があります。
例えば、「1カ月前のチームミーティングで、図表が見やすいようにと思って資料をカラーコピーしたら、『印刷代がかさむから資料は白黒コピーするのが常識だ』と上司に怒られたな」という経験を、苦い思い出として抱え込んでいるかもしれません。すると、「次は何事も指示されるまで動かないようにしよう」とネガティブに意味付けされてしまい、行動への不快要因となって、自ら動き出せない部下ができ上がってしまうのです。